「テック×小売」新業態の正体とは

佐々木康裕『D2C』(NewsPicksパブリッシング)

第9位の『D2C』にもご注目を。小売の世界で、いま大きなパラダイムシフトが起きていることをご存じでしょうか。デジタル革新は、消費者の購買行動や動機を一変させました。インターネットを通して簡単に情報が手に入るようになったうえ、ブランドごとの品質の差も縮まってきています。そうしたなか、購入を決定づけるのは、もはや認知度でも機能性でもありません。いま求められるのは、ブランドのもつ世界観やストーリーの力です。

こうした消費者の変化に反応し、「テック×小売」という新業態を打ち立てたのが、D2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)ブランドです。彼らはデジタルと小売を融合させ、プロダクトよりも顧客データ分析を重視する、いわばメーカーの皮をかぶったテック企業。D2Cが販売するのは、代替可能なプロダクトではなく、ブランドの世界観そのものといえるでしょう。その事業運営は、デジタル社会における顧客との関係性づくりや、ブランディングのお手本となるはず。

この「複雑な社会」への向き合い方を教えてくれる

最後にご紹介するのは、第18位『時間とテクノロジー』。作家・ジャーナリストの佐々木俊尚氏が送る、「新しい人間哲学」ともいうべき一冊です。

佐々木俊尚『時間とテクノロジー』(光文社)

現実では複数の原因が重なり合うことで、ひとつの結果が生じます。「ひとつの原因がひとつの結果に結びつく」という思考では、この世界の複雑性を説明することはできません。「わかりやすい物語」は大抵の場合、間違っているのです。では私たちはどう世界を捉えていけばいいのでしょうか。

佐々木俊尚氏は、これまでに明かされてきた世界の「法則」や「物語」を巡りながら、社会事象を動かしている仕組みを明らかにしようとします。そして、この複雑な世界に対して、どのように向き合っていけばよいのかを誠実に語ります。

本書のなかには、高度な哲学的議論や科学的話題も含まれていますが、どれも身近な例を通して説明されており、スムーズに理解できるでしょう。時間のあるときに、ゆっくり気楽に楽しんでいただきたい本です。

先月から引き続きランキングに入ったのは、『ビジネスを変える100のブルーオーシャン』(第17位→第6位)、『売り上げを減らそう』(第18位→第11位)の2冊で、どちらも先月より多く読まれていました。また、要約を公開してから時間がたっているにもかかわらず、『時間革命』(圏外→17位)が再び注目を集め始めています。テレワークの推進もあり、これまでよりも時間の使い方に関心のある方が増えたことが一因だと考えられます。来月はどのような本が多く読まれるのか、引き続き注目していきます。

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