もう一点、2人が決定的に違ったのは決め球があるかないか。斎藤佑樹にはこれと言って目を引く球種がなかったんだよ。ピッチング全体はまとまっている感じがするんだけども、プロでやっていくのは難しいだろうと感じた。人に負けない武器がないと。マー君のピッチングを初めて目の当たりにしたときに、たまげたよ。スライダーが超一級品。これならプロにも通用すると確信した。

マー君のスライダーは、ストレートと同じ軌道からバッターの手元で急に曲がる。たいていのピッチャーが投げるスライダーは、曲がりの少ないカーブみたいで、早い段階から曲がり始めるから、バッターは合わせやすいんだよ。マー君のスライダーは、ホームベースの上で曲がるイメージ。あんなのバッターが対応できるわけないよ。

楽天のスカウト陣の評価はそこまで高くなかったけど、俺はどうしてもピッチャーが欲しかったからね。けっこう強引にドラフトで指名させてもらったよ。その後の活躍は言わずと知れているから、俺の目に狂いはなかった。

マー君は「勝たせたい」エース

そんなマー君もデビュー戦はほろ苦かったな。ソフトバンク打線につかまって、2回ももたなかったんじゃなかったかな。それでベンチに帰ってきたとき、泣いてたよ。デビュー戦であれだけ悔しがれるんだから、見込みがあるなと思ったね。マー君が本当にすごいのは、完投にこだわっていたことだね。若干無理をしてでも「行かせてください」っていうピッチャーの姿を見て、打線が奮起しないわけないじゃない。マー君が負けないのはそういうことだよね。

チームにこいつを勝たせたいって思わせるのが本当のエース。野球に対する姿勢でチームを引っ張っていくんだよ。シーズン24勝無敗という記録もうなずけるわな。マー君は球界を代表するエースに成長した。あのメジャーの名門ニューヨーク・ヤンキースでも安定した成績でエース級の活躍を見せているね。俺もおいそれとマー君なんて呼べないような世界的な大投手になっちゃったよ。

2人とももう20年32歳だよ。ここまで明暗が分かれるとは、甲子園を見ている段階では思わなかったね。斎藤佑樹はプロで目立った実績は残せていないね。もうダメなんじゃないか。頑張ってほしいが、あれ以上はもう無理だろう。

(構成=プレジデント編集部 撮影=村上庄吾)
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