「すぐにやって、早く終わらせてほしい」

午後5時。バーへ入ると、ぽつりぽつりと、ステージまわりの客席で化粧をするストリッパーたちの姿があった。

八木澤高明『花電車芸人 色街を彩った女たち』(角川新書)

先ほどの人相の悪い女が、バーに着くや否や言った。

「早く始めてちょうだい。10分で終わらせるんだよ」

さすがにその発言には驚いた。昨日の話では、ストリッパーや社長の友人たちを観客として呼び、その前で芸をすることになっていた。しかし、彼女は「今すぐやれ」と言って聞かない。2、3人のストリッパーしかいないのに、芸を披露することはできない。約束が違うと、私たちはもちろんステージを行うことを拒否した。

すると、人相の悪い女がどこかに電話をかけた。「電話に出ろ」と言われて取ると、片言の日本語が聞こえてきた。社長の奥さんだという。

「すぐにやって、早く終わらせてほしいんです」
「観客がいなくては、ステージをやることはできません。せめて、ストリッパーたちや社長の友人たちを呼んでからにしてください」

私がそう言うと、彼女はしばし沈黙した後、「わかりました」と渋々納得したのだった。

ヨーコがステージの準備をはじめると、徐々にバーのストリッパーたちも増え、その数は10人以上になった。店の開店時間の午後6時が迫っていた。ストリッパーだけでなく、通りにたむろしている客引きの男や、通りで豆などを売り歩いているインド人なども集まってきて、ちょっとした人数となった。

芸が心を開かせ、観る者の態度を変えた

ステージのかぶりつきには、意外にも、「すぐに始めろ」と絡んできた人相の悪い女が仏頂面で座っていた。その後ろには、踊り子や客引きたちがちょっと間をあけ、様子をうかがうように座っている。

ステージに上がったヨーコが、英語で芸の説明をはじめた。初めての海外公演のためか、少しばかり緊張しているのだろう。声がいつもと違い、上ずっていた。その姿からも、このステージにかける彼女の思いが伝わってきた。

はじめに行ったのはクラッカー芸。タンポンから伸びたチェーンの先にはクラッカーがついている。クラッカーを引っ張っても、性器の圧力でタンポンは抜けず、派手に「パン」とクラッカーが鳴った。クラッカー芸に驚きの歓声が上がり、徐々にステージが盛り上がってきた。見れば、人相の悪い女が一番前で驚きの声を上げ、一番大きな拍手をしていた。ヨーコの芸が心を開かせ、先ほどとは別人の姿に変えていた。

次に、ヨーコは女性器からタバコを飛ばした。飛び出たタバコが私の友人の額を直撃し、バーの中は更なる盛り上がりを見せた。タバコの次は、吹き矢で風船を割る芸だった。初速160キロという、見たことのない矢のスピードに感嘆の声が上がる。