「いくら払えるんだ」と金銭を要求されたが…
社長も、私たちがどんな人間なのか確認したかったのだろう。そして、電話で話したことを改めて繰り返す。しつこいほどに、「営業中は駄目だ、ステージをやっている店の踊り子は撮れない」と言う。私たちが「それでもオッケーだ」と何度も言うと、営業前ならステージをやってもいいとようやく折れた。
一応、ステージは許可された。ほっとするのも束の間、社長は「いくら払えるんだ」と金銭を要求してくる。
当たり前だが、あまりに高額だと、こちらも断念せざるを得ない。このような場合は、こちらから金額の提示をせず、まずは向こう側から金額を言わせたほうが良い。
社長が言った金額はこちらの許容範囲であったが、できることなら値切りたかった。ケチくさい話だが、撒き餌のつもりで友人と私で3回もこの店に通い、少なくない飲み代も落としているのだ。
あまりに値切りすぎて相手の気持ちを害しても良くない。結果、言い値の3分の1の額で交渉が成立した。ステージは開店前の約30分。観客は社長の友人たちや店のストリッパーたち。これでなんとか、ヨーコの芸をバンコクで披露するところまで漕ぎ着けた。
ヨーコが感心した「技巧派」ストリッパー
ほっとした気持ちでステージを見ると、昨日と同じようにストリッパーが相も変わらず、ピンポン玉を性器から飛ばしていた。その芸を目にしたヨーコが「すごい」と言った。私には言葉の意味がわからなかった。
「ヨーコさん。どこにすごさがあるんですか?」
「私にピンポン芸をやれと言われても無理ですよ。彼女の芸はピンポン玉をひとつずつ飛ばすために、ひとつ飛ばしたらすぐに性器を閉めなければいけない。私の芸と違い、技巧派なんです」
寒々としていたバーの光景が、ヨーコの説得力ある解説ひとつで、違ったものに見えてきた。だが、ヨーコがすごいと認める芸を行っているストリッパーは、バーの客に請われれば、体を売ることもしなければならない。彼女の芸は、体を売ることを前提としたものであり、日本のように芸として認められているわけではない。売春なくしては、存在しえないのだ。そこに哀しさを感じずにはいられなかった。(続く)