モチベーションは「報酬」か「やりがい」か
この問いに答えを与えるのが、あまりにも有名な、ドゥンカーのロウソク問題です。私も以前、著書の中で触れたことがあります。
心理学者ドゥンカーが考案したこの実験では、次のような道具を使います。
ロウソク1本、マッチ1束、画鋲1箱。
実験中、被験者に対してひとつの課題が与えられます。ロウソクをコルクボードの壁に固定して、火をつけるというものです。ただしこの課題には条件があり、融けたロウが下のテーブルに落ちてはいけません。また、ロウソクを直接画鋲でコルクボードに固定することもできません(物理的にも難しいです)。
この問題の答えは、箱から画鋲をすべて取り出し、画鋲で箱をコルクボードに固定、そこにロウソクを立てて、マッチで火をつけるというものです。画鋲を入れてあった箱を道具として使えるかどうか、という創造性が求められる課題なのですが、今や有名になりすぎて、創造性を測るテストとしてはもはや使うことができないでしょう。
それはさておき、この課題の被験者をやはりふたつのグループに分けて、片方には多額の報酬を与え、もう一方にはやりがいのみを与えるという条件を設定します。
単純な課題に対しては「報酬」がモチベーションになる
すると、予想どおり金銭的報酬を与えたほうがひらめくのに余計に時間がかかってしまい、やりがいのみを与えたグループのほうが平均して数分早くこの問題を解くことができたのです。この結果はおそらく多くのみなさんが想像したとおりです。
創造性を上げたいときには報酬を与えてはいけない、むしろ、やりがいを与えたほうが創造性が高くなる、ということがわかりました。類似の現象は多くの分野で実際に見られるのではないでしょうか。
さて、この問題には別のバージョンがあります。課題も条件も同じで、ただ画鋲が箱から出されている、という点だけが違うものです。画鋲が箱の中にあるか外にあるかだけで問題の難易度はまったく変わってきます。あらかじめ画鋲が箱の外にあれば、創造性やひらめきはまったく必要なく、課題はただ与えられた材料を組み立てるだけの単純作業になるからです。
では、そうなると実験の結果は変わってくるのでしょうか?
予想どおり、このバージョンでは、報酬を与えられたグループのほうが圧倒的に早く、この課題をやり遂げるという結果になりました。単純なルールとわかりやすいゴールの見えている短期的な課題に限れば、外的動機づけが有効だ、ということが改めて確認されたわけです。
ところで、私たちが経験してきて、子どもにも学習させようとしているのは、こうした単純な課題に対する応答の速さ、ではないでしょうか?