古くは春秋戦国時代や『史記』。さらに『18史略』『三国志』の時代では、紙は発明されていたとはいえ貴重品。木簡や竹簡に書くにしても、ダラダラ書いて余計に消費してはもったいない。だから、できるかぎり無駄を省いた凝縮した文章になっており、現代人にとっては読解が難しくなるわけです。それでいて、読解さえできれば内容が読み間違われることはない明瞭な文章。『孫子』のような複雑な戦略や戦術を扱った兵法書でも、簡潔ながら意味が正確に伝わるように書かれています。私も中国の古典のように簡潔明瞭を心がけたいと常に思っています。

しかし、簡潔明瞭だけでは不十分。読み手に対し訴える力がなければ意味がありません。そのためには自分自身の言葉で語り、自分の実際の体験や実績に基づいて書くしかない。さらに、リーダーなら夢も語らなくてはなりません。

じつは、以上の条件をすべて充たしているものがあります。「檄(げき)」です。

リーダーが多くの人々に呼びかけ訴える檄文。起承転結を踏まえ簡潔明瞭、夢を語り、我々のめざすものは何かと自分の言葉で訴える。その言葉が実務・実績に裏付けられていなければ、誰もついていきません。

訴える力のある文章には「新鮮な語彙」も欠かせません。たとえ古典や名作から引用しても、どこかで目にしたことがあるような字句ばかりでは読み手の心は動かないでしょう。新鮮でわかりやすい言葉、つまりインパクトのある言葉が必要です。

JFEホールディングスは2002年にNKKと川崎製鉄とが統合して生まれたものですが、そのとき私は「コンストラクティブ・コンフリクト」、すなわち「創造的衝突」をしようという言葉を使いました。統合を真に実らせるには、互いに衝突を避けるのではなく、相手に対する敬意を根本にしたうえで、むしろ衝突を厭わず、自由に意見をぶつけ合うことが大事だ。そういう意味を込めた言葉です。

「百聞以不如一見 百見以不如一考 百考以不如一行」

これも私の造語の1つです。最初の「百聞は一見に如かず」は誰でも知っている言葉で、たしかにそのとおりですが、見ただけで満足していいのか。その体験をベースに頭がしびれるぐらい考えることが大切だ。さらに、考えただけでもダメで、実践が必要だということです。

あるとき、海外出張などで、視察したことだけで満足し、見てきたことに考察を加えたり、何らかのアクションにつなげようとしない先輩・仲間の言動に疑問を感じ、考えだした言葉です。「行」には「行動」という意味と、良い結果を伴う行い(行(ぎよう))という意味も込めています。

「収益は固定費」という言葉を使ったこともあります。本来なら「売値-コスト=収益」なので、収益は他の数字次第で、大きくなったり小さくなったりプラスにもマイナスにも振れるもの。しかし収益を動かせないものとして考え、「売値-収益=コスト」とすれば、売値から収益を引いて残った数字が、コストとしてかけることのできる金額だということになります。企業にとって収益こそ譲れないものだという考え方を、この言葉で示したわけです。