私の故郷は富山です。父は高校の漢文・国語の教師だったので、家には日本や世界の文学全集から中国の古典まで、たくさんの本がありました。冬は雪に閉じ込められてしまう土地柄なので、私は小学校時代からそれらの本を手当たり次第に読んでいました。そういう体験が、造語を考えるときに頭の中で源泉のような役割を果たしているのかもしれません。

文章を書くのは、忍耐を必要とする作業です。しかし、私は、自分の手で実際に文章を書くことがますます重要度を増す時代になってきたと考えています。企業の存在意義は価値の創造です。しかも時代に合った新しい価値。リーダーはそれを表現する言葉を持ち、人々に伝える必要があるからです。

最近はビジネスでプレゼンテーションなどする場合、パワーポイントを利用するのが一般的になりました。私も社内で話したり外部で講演したり、あるいは株主や機関投資家向けに話をする場合、それを用いることが少なくありません。

その作成資料に関して、私は必ず細部にまで目を光らせます。文章の中身はどうするか、体言止めにするか動詞で終わるか、字の大きさ、位置、色などを決定するのです。1枚の画面で文章が4行以上あるのは瞬時に内容をとらえるには長すぎるという指示等々も含まれます。

大切なのは相手に訴える力のある魅力的なものにするための工夫です。その工夫を生みだす基礎はすべて「書く」ことの中にあります。簡潔でインパクトのある説明文を決められた字数の中で書いたり、一定のスペースの中に印象的な解説図を描いたりするのにも、根本には「文章を書く力」が必要です。

30代の頃、NHKの『視点・論点』『ニュースの焦点』といったミニ番組の制作現場を、みずから希望して見学させてもらったことがあります。画面に登場する解説用の図が非常に優れているので、外国で技術論文の内容をスライドで発表するときの参考にしたいと思い、その道のプロが表現内容や字の大きさ、配分等を決める様子を見せてもらったのです。

文章を書くには言葉の選択、創造など思考をより深く掘り下げる必要があります。そこで培われたものは、より深い思考に繋がり、優れた企画書などの作成にも役立つはずです。

そして何より、アピール力のある文章に不可欠な「言葉の創造」。それは時代に合った新しい価値を見つけだすという、経営にとって一番大切な部分とも、通じ合っているように思います。

(小山唯史=構成 澁谷高晴=撮影)