「小規模の企業がつくるものは、すでに世の中に出回って値段が決まっているものではダメ。だってプライスリーダーになれないから。そこで目をつけたのがイタリアのカチョカヴァロというチーズです。昨年、生乳が余って牛乳を大量に廃棄しなければならない事態が起きたとき、その牛乳を何とか利用するために、5000万円を投資してチーズ工場を拡張しました。つくるのはかなり難しかったですが、約1年かけてようやくうまく生産できるようになりました」
チャレンジ精神が実り、チーズはひと月で約2000万円も売り上げる花畑牧場の主力商品となった。
「工場を拡張したとき、ガラス張りにして中がよく見えるようにしました。車でも何でもそうでしょ。売れるものには必ずショールームがある。しかもウチの商品は全部手づくり。大手では絶対できません。多くの製造現場はお客さんの目の届かないところにありますが、ウチは積極的に見てもらい、安心感を買ってもらうんです。そこに価値が生まれる」
主力商品であるカチョカヴァロは1個約200グラムで980円。生キャラメルは12粒入りで850円だ。
「やや高いですけれど、安売りすることは絶対にしない。売るのは空港、百貨店の催事、生協とショッピングチャンネルのみ。ブランド戦略ですよ。あとはいやらしくない範囲で、オレがメディアを使って宣伝する。やっとそういうことができるようになりました」
10年間赤字続きだった牧場経営だが、やっと最近軌道に乗ってきた。挫けなかったのは、持って生まれた失敗を恐れない精神力と芸能界で唯一の友人だった東国原宮崎県知事の影響もある。
「30歳を過ぎたころかな。『お互いすり減ってるよね。いつまでやれる?』『あと、2、3年かな』なんて話をしていたんですよ。それで、これからの時代、ひとつのことをやる時代じゃないと。二兎を追う者は一兎をも得ずじゃなく、二兎でも三兎でも追ってリスクヘッジをかけなきゃダメだ。そう話し合った。そして彼は『生活を変える、マラソンを始める』って言って、タバコもやめた。勉強して大学に入った。彼にとって政治家になるという目標が、オレにとっては牧場だったんですね」
“新千歳空港を制するものは、全国を制する”――この言葉を胸に、08年、50歳になる田中義剛の挑戦がまた始まる。