社内の反対を押し切って新事業に挑む

——経営者としての信条は受け継ぎながら、事業面ではさまざまな新機軸を打ち出してこられました。社内の反発や失敗もあり得る中、どんな思いで挑戦されてきたのでしょうか。

【谷田】例えば社長就任の約2年後に発売したレシピ本『体脂肪計タニタの社員食堂』は、社員食堂で提供していたメニューをまとめたものです。社外の方々の健康づくりにも貢献したい、自分の調理師や栄養士の知識も生かせると思って出版社さんのお話し(売り込み)に快諾したのですが、ヒットするまで社内では誰も興味を持ちませんでした。おかげで反対の声もなかったので、比較的自由に進めることができたのです。

猛反対にあったのはレシピ本のヒット後です。「このメニューはどこで食べられるのか」という問い合わせが殺到したため、それなら一般の人が食べられる食堂をつくろうと考えたのですが、飲食業への進出はタニタ史上初。幹部全員から反対の声が上がりました。

でも、それならやめようとはまったく思いませんでした。何とか彼らを説得しようと、綿密に市場調査をし、損益分岐点もはじき出して、一企画者として取締役会でプレゼンしたのです。それでやっとOKが出て、今に至るというわけです。企業の健康経営を支援する「タニタ健康プログラム」も、今でこそ高い評価をいただいていますが、同じような壁を乗り越えてきた経緯があります。

タニタが提案する「タニタ健康プラグラム」。自治体や企業に向けて医療費を適正化するパッケージとして提供している。(図表=タニタ提供)

——新事業が絶対成功するという自信はあったのでしょうか。

【谷田】自信というよりも、一度こうと決めたら押し通すタイプなので(笑)。よく言えば経営者タイプですが、実はこうした性向は父もまったく同じなんです。父も、経営者として事業の方針転換や海外進出といった改革を実行してきた人ですから、私の行動は「谷田家のDNA」によるものとも言えるでしょう。

手前みそですが自分では、市場を先読みする才覚や企画力はあると思っています。その上、やると言い出したらきかない性格ですから、反対されても「どう妥協するか」より「どう押し通すか」を一番に考えますね。ただし、それはサブプランをしっかり持った上でのこと。売れなかった場合は柔軟に路線変更できるよう、常に準備はしています。これまでもそうやって実績を上げてきました。

そもそも、反対の声が上がるのは新しい発想であることの証しです。まだ誰もやっていない、つまり成功事例がなくそれを理解できないから反対するわけです。裏を返せば、皆が賛成するような事業は、すでに市場にあって誰かが成功しているもの。

ですから、私は皆に賛成されたら、もう世にあるのかと不安になりますね。逆に反対されたら、これは行けるぞと自信を深めます。取締役会で新事業を提案する際も、常々「皆さんからすぐOKが出るような事業は、もう参入するには遅いんですよ」と言って説得しています。