新しい働き方「日本活性化プロジェクト」を推進

——働き方改革にも積極的に取り組まれていますね。

【谷田】2017年から実践を始めた「日本活性化プロジェクト」は、希望する社員を雇用契約から業務委託契約に転換できるようにする仕組みです。個人事業主として弊社で働きながら、新しい領域にもチャレンジできます。まさに社員とフリーランスのいいとこどりです。私がこれを導入したのには二つの理由があります。

第一は、会社が逆境にあるときこそ優秀な人材が必要になりますが、どうすれば彼ら彼女らの力を借り続けられるかということでした。こうした社員はロイヤルティも高いので、会社が傾いても逃げたりはしません。しかし、彼ら彼女らにも守らなければならない生活や家庭があります。これが維持できなくなれば、やむを得ず会社を去っていくでしょう。個人事業主になることで、報酬を確保し、一緒に働き続けられる仕組みができないかと考えました。

第二は、健康経営をさらに推進したいという思いです。社員が精神的に健康な状態で働き続けるためには、やりがいが欠かせません。個人事業主という立場になれば、仕事は「やらされる」ものから「主体的に取り組む」ものに変わっていくでしょう。この二つに加えて国の働き方改革の方針もあり、自分なりに考えた末、こうした形をとることに決めました。

希望する社員を雇用契約から業務委託契約に転換できるタニタの「日本活性化プロジェクト」。どう実践してきたのか、その経緯をまとめた本『タニタの働き方革命』(日本経済新聞社刊)が2019年に刊行された。

——従来の仕組みを大きく変えるわけですから、社内の反発も大きかっただろうと思います。

【谷田】反発は乗り越えられないとわかっていたので、初めから人事制度とは別立てにしました。弊社には労働組合がありますから、ここの賛同を得るのは不可能だろうと思っていたのです。そんな工夫もあって実践にこぎつけたのですが、1年目は8人が応募してくれたのに2年目はゼロ。不思議に思って社員たちにこっそり聞いてみたら、上司から止められていると言うんですよ。

そこでまずは上司らにこの制度をきちんと理解してもらえるよう再度話し合いの場を設けて、2年目からは私を含む取締役4人もプロジェクトメンバーに加わりました。これで社員たちへの説得力が増し、その後は反対していた人たちも「いい制度だね」と言ってくれるようになりました。

このプロジェクトは、今後も発展させていきたいと思っています。そのため、2021年度からの新卒採用では、この制度に賛同できる人材を採用するつもりです。主体的に働きたい人だけが入社してくるでしょうから、社内の活性化にもつながるだろうと期待しています。

——最後に、ファミリービジネス三代目社長として、同じ立場の方々にメッセージをお願いします。

【谷田】ファミリービジネスには、先人から意識的にも無意識的にも多くのことを学び、受け継いでいけるという強みがあります。しかし課題も多く、私自身、タニタがずっとこの経営形態でいいのかどうか、日々迷いながら考え続けています。

(構成=辻村 洋子 撮影=小川 聡)