受け継いだ「谷田家のDNA」とは

——そのよりどころというのは何でしょうか。

【谷田】父は「経営者になると、どの方策をとるかで迷う局面が多くなる。自分はそんな時、自己の欲が入っていないかどうか、世のためになるかどうかを考えて決断してきた」と教えてくれました。私は今もこの通りにしています。

当初悩んだのは、後継者として何を受け継ぎ、何を変えるかということでした。ただ、自分が受け継いだものに気づくには時間がかかりませんでした。最初は「お金」など「資産」を受け継いだと思っていましたが、それらは会社の成長に対して勝手に動いてくれるわけではない。だからこれらではないなと思って、考えた末に「人」に行き着きました。

私が父から引き継いだのは「人」なのです。これこそタニタの力です。何か失敗があったとしても、まず守るべきは社員です。社長就任後は、社員がパフォーマンスを発揮できるよう本社のリニューアルに伴い、フリーアドレスの導入や人事制度の改革などさまざまな施策を実施してきました。

社員食堂のレシピをまとめた料理『体脂肪計タニタの社員食堂』(大和書房刊)は、シリーズ累計発行部数続々篇まで続く544万部を超える大ベストセラーとなった。「タニタ食堂」事業もここから生まれた。

——先代からは、決断のよりどころや人材を受け継がれたのですね。ほかに「谷田家のDNA」が受け継がれていると思うことはありますか。

【谷田】弊社が2015年に施行した行動指針の一つめは、祖父が座右の銘にしていた言葉「人生万事因己(じんせいばんじおのれがもと)」です。他責の心を捨て、自ら進んで状況を改善し、周囲に影響を与えていくという心構えを表したもので、見た瞬間に「これだ!」と思いました。私自身はもちろん、社員にもこうした心を持ってほしいと願っています。

また、祖父とは経営の話をしたことがないのですが、今になって同じ考え方をすることがたびたびあります。例えば、私の座右の銘は「一粒で二、三度おいしい」です。何かの改善や一つの事業や行動において一つの目的で行うことは非効率であり失敗しやすく、意図して二つ、三つの成果を生み出すように行動、リスク対応もせよということです。

昨年、弊社が設立75周年にあたって社史を編纂へんさんしたところ、祖父が常々「二段構え、三段構え」と言っていたことがわかりました。私の座右の銘とまったく同じような意味で、それを知ったときはゾクッとしたものです。祖父から直接聞いた記憶はないので、これがDNAというものかと。こうした理念的な部分は、祖父から受け継いだものだと思っています。