ダメ病院に見切りをつけて他の医師が一斉退職してしまった

実は2015年秋に、診療所への規模縮小が検討されていた志摩市民病院に見切りをつけて、江角さん以外の医師が一斉退職してしまった。

高齢の患者と歓談する、江角院長(撮影=堀 隆弘)

一人残された江角さんは、考えた。

このまま、本当に診療所へと規模縮小してしまっていいのだろうか。いや、そんなことはないはずだ。志摩市民病院がある南部には、約2万人が住んでいる。この人たちが急病になったときに、北部にある県立志摩病院まで行くには時間がかかる。何より、これからニーズが増えていく緩和医療や在宅医療の拠点がないではないか。志摩市の高齢化率は37.4%(2015年時点 全国平均26.6%)。この人たちの終末期医療はどうなってしまうのか。

タウンミーティングを行い、300人以上の市民の声を聞いた。「税金泥棒」「つぶしてしまえ」という厳しい声もあるなかで、「なくなると何かあった時に不安」「安心して暮らしたい」「見捨てないでくれ」という声もあった。

「なくしてはいけない。志摩民病院がなくなると、志摩市の医療が崩壊する」

そう結論づけた江角さんは、病院として成り立たせるために知り合いの医師を必死に口説き、常勤医師1人、非常勤医師3人(当時)をなんとか確保し、新院長としての仕事を開始した。

「絶対に断らない」方針で、毎年1億円の赤字を削減

そこから新院長は驚きの手腕を見せる。

毎年1億円の赤字を削減し、4年で経営を立て直したのは先述した通りだが、一体どうやったのか? よほど大胆なリストラやコストカットを断行したのかと思いきや、「外来や入院患者が増えたことによる純粋な収益増」だと言う。

「医療ニーズは、やはり地元にあったんです。それまで志摩市民病院は、救急要請があっても専門外だと言って断ってばかりいました。そのために収入も少なく、地域住民からも信頼されていなかったんです。だから、私が院長になった時に『絶対に断らない』をモットーに掲げました。とにかく断らず、自分に回してくれと。これをやり続けたら、患者さんが来てくれるようになりました。そして、職員のモチベーションが上がった。これにはとても感動しました」(江角さん)