国の方針に逆らえず及び腰になる司法
「自由意思を極めて強く拘束するものではない」というのは、よくよく考えると非常にわかりにくい。例えば、「君に部活の引率してほしいんだけど、嫌なら断ってもいいよ。まあ断った人は今までにはいないけど」と言われたらどうであろう。これは自由意思を極めて強く拘束するものだろうか。きっと裁判所はそうではないと判断するのであろう。
結局のところ、よほど明確に無理やり残業させるような場合でもない限り、「自由意思を極めて強く拘束した」という判断にはならないだろう。そしてそんなケースはめったに存在しない。したがって、この裁判例の判断基準に従うと、教員側は常に敗訴することになってしまう。
公立学校の教員にだけこんな特殊な判断基準を立てて残業代の発生を否定する合理的な理由はまったくない。残業代の発生を認めると、わざわざ法律を作って残業代の発生を防ごうとした国の方針に反することになるので、裁判官は及び腰になっているのだろう。
もしも残業代請求を認めれば、国の方針に逆らった裁判官として目立ってしまい、出世にも影響するかもしれない。だからこんな判断基準を立て、悩みを見せるようなふりをしつつ、結局残業代の発生を否定しているのではないかと思う。
この国がやっていることはブラック企業とまったく同じである。タダで長時間労働をさせたいから、残業代というブレーキを外し、教員の命を危険にさらしている。それでも昔は残業が比較的少なかったかもしれないが、先ほど見たとおり、小学校で約3割、中学校で約6割が過労死ラインを超えており、「1カ月の残業平均が8時間」というかつての状況とはまったく異なってしまっている。
過労死の悲劇を生むずさんな出退勤記録
このように、「残業代ゼロ」の状況なので、労働時間の記録もまともにされていない。実態調査によれば、出勤時間の記録方法は下図表のとおりである。
タイムカードによる出勤管理が、小学校で8.6%、中学校で9.3%。ICTを活用した記録方法は小学校で14.1%、中学校で11.8%。これらは客観性の高い記録方法と言えるが、合計しても小中ともに約20%程度しかない。
もっとも多いのが管理職による出勤確認だが、よくよく見ると、これは出勤を確認しているだけであり、その時間を記録しているとは書いていない。出勤簿への押印も同様である。つまり、この調査によると、教員の出勤時間を記録している学校は約20%しかないことになる。
次に、退勤時間について見てみよう。こちらも傾向は出勤時間の管理とほぼ同じである。タイムカードによる退勤時刻の記録が小学校で10.3%、中学校で13.3%。ICTを活用した記録は小学校で16.6%、中学校で13.3%。これらを合計すると、小中共に約30%となり、出勤時間の管理よりはややマシな数字と言える。
そして、こちらももっとも多いのが管理職による確認だが、退勤時間を記録しているとは書いていない。したがって、70%以上の教員の退勤時間が記録されていないことになる。これが過労死遺族に悲劇を生む。労働時間の立証が極めて困難になるからである。