厚生労働省は今回の受け入れを「特例的」として、本格的なものとは考えていないようだが、人材不足が進めば、看護や介護の質の確保も難しくなる。不足を外国人労働者で補完するならば、直近で少なくとも人数にして5万人くらいの受け入れが必要で、20年後には施設職員の35%以上を外国人労働者によってまかなう必要があるといったシンクタンクの試算結果も出ている。
少子高齢化によって、30年の日本の生産年齢人口は1700万人減少するそうだ。それを補うには、総人口の10%程度の移民を認める必要があるとされているが、介護人材の手当ての状況を見る限り問題は山積している。
具体的には、日本人と同一の労働・職務に同一賃金を出す原則や、年金・医療・教育など永住を見据えた共生社会を構築する仕組みもつくらなければならない。
これまで、自動車工場などで部品をつくり、検査して不良品を捨ててきた単純作業労働に比べれば、人間を相手にする仕事は緊張する。しかし、手助けが必要な人の役に立てることがうれしいのだと言う外国人職員の姿を目の当たりにすると、もっと積極的に外国人労働者を受け入れる方向性を見いだすことが必要であると感じる。
事実、現場で働いている外国人労働者に対する評判は悪くない。フィリピン人の笑顔は天性のもので、彼らのコミュニケーション能力に救われた高齢者も多い。こつこつと作業に取り組むブラジル人介護士を評価する声も聞かれる。総じて外国人労働者の評価は高いのだ。
そんななかで、新しい取り組みが実施されようとしている。愛媛県新居浜市にある社会福祉法人はぴねす福祉会は、フィリピンに在住している日系フィリピン人親子の受け入れ準備を始めた。
日本人男性とフィリピン人女性の間に生まれた子供たちの養育を主な目的とし、彼らを日本に迎え入れてきちんとした教育環境を提供する。同時に、保護者として来日するフィリピン人の職場として介護労働の機会を与えようというものだ。
地元の小学校とも協力し、住まいも確保するなど、準備には相当の経費がかかるが、こうした取り組みの結果、最終的には介護人材の確保にもつながる。
この取り組みには、国籍取得やビザ申請など多くの問題が残されているが、外国人労働者を受け入れる新しい手法として注目度は高い。
この考え方に賛同するほかの社会福祉法人からも協力の申し出が集まり始めている。その結果、フィリピンにこうした活動を支えていくNPO法人設立に向けた準備も始まろうとしている。日本では、日系人家族を受け入れて語学学校を開こうといった話もある。
ひとつの取り組みがきっかけとなって、こうした独自の取り組みが形になっていく可能性が膨らんでいるのだ。
介護現場における外国人労働者の受け入れは待ったなしのところにまできている。老人ホームを選ぶチェック項目のなかに、働いている外国人労働者の質や専門能力に対する評価が必要になってくる時代は、そう遠くない未来の話になりそうだ。
そうなれば、ホームに入居する人たちやその家族と施設側のコミュニケーションをさらに高めていくことが必要になる。言葉の壁をも乗り越えるような豊かなコミュニケーションが繰り広げられる生き生きとした暮らしの場が、全国各地に見られるような時代がくれば、どんなにすばらしいことだろう。介護現場に外国人がやってくることは必然なのだから。