PBのイノベーションをなぜ起こせたか
——なぜ、売り手やつくり手は無意識のうちにも、自分たちの都合を押しつけたり、既存の概念をもとに思い込みで判断してしまうのでしょう。
【鈴木】それは、流通の仕組みが今なおサプライサイドの都合でつくられているため、自らを否定的にとらえ直さないと、誰もがサプライサイド側からの発想に流れてしまうのです。
たとえば、セブン&アイグループでプライベートブランド(PB)のセブンプレミアムを開発することになったときの話です。流通企業のPB商品といえば、「メーカーのナショナルブランドより低価格の商品」という定義が一般的でした。それに対し、私は「質を徹底して追求する同時に、グループ内のコンビニでも、スーパーでも、百貨店でも、同じ商品を同じ価格で販売するように」と指示しました。すると、各事業会社から猛反発が起こりました。
——それは、既存の概念からするとありえないでしょう。
【鈴木】コンビニ側はメーカーの希望小売価格より原則的に値を下げて売るスーパーと同じ商品を同じ価格で置くわけにはいかないといい、スーパー側はコンビニや百貨店と同じ値段で売るわけにはいかないといい、百貨店側はスーパーやコンビニが扱う商品を百貨店が扱うわけにはいかないと反対しました。
しかし、コンビニと、スーパーと、百貨店は違うという区分けは、売り手側が観念的にそう決めつけているだけです。「お客様の立場で」考えるとどうなるか。お客様はセブンプレミアムの商品について、「これは200円を出しても買うだけの価値がある」と思えば、セブン-イレブンでも、ヨーカ堂でも、そごう・西武でも買う。どちらも同じ値段だから買わないとは思いません。業態の区分けにこだわるのは、売り手がサプライサイドの固定観念にとらわれているからです。
重要なのは、自分たちの固定観念を否定し、どの業態でも同じ値段で販売しても、お客様に価値を感じて買ってもらえるような、これまでにない新しい商品を開発していくことではないか。そう説いて、プロジェクトを推進させました。結果、セブンプレミアムの年間総売上高は今では約1兆4000億円(2018年度)に達し、各店舗での坪当たり売上高でいちばん高いのは西武池袋本店の地下食品売り場になっています。
——セブンプレミアムは流通業のPB商品で初めてメーカー名を明記するなど、PBのイノベーションだと思いますが、それは顧客の視点に立つことで実現したわけですね。
【鈴木】仮説を立てるとき、もう1つ大切なのは、必ず未来を起点に考えることです。一歩先の未来に目を向け、何らかの可能性が見えたら、そこから顧みて、今何をすべきかを考える。けっして過去の延長線上で考えてはいけません。