信頼関係構築のきっかけは「猫」

その後、父親の話からLさんの現在の関心事が、かわいがっている猫の世話だと分かった。あるときこの猫が病気になり、病院を探すことになった。動物病院に猫を連れていくのに車が必要だが、父親もLさんも車を持っていない。そこで自立相談支援窓口や社会福祉協議会が話し合い、社会福祉協議会のボランティアグループの会員が車で迎えにいくことにした。何度か病院に同行したところ、次第に猫以外の話もするようになった。

Lさんに仕事をしたい気持ちがあることが分かったので、支援員は再度自立相談支援窓口を勧めたが、そこには行きたくないという。自宅から出て訓練を受けることにはまだ抵抗があるようだ。そこで社会福祉協議会が請け負っている内職を提案したところ、自宅で作業するようになった。

支援者としては、今後、もし高齢の父親の体が不自由になることがあれば、将来を考え、次の段階の提案ができるようにしたいと考えているという。

本人の悩みに継続的にかかわる「伴走型支援」

高齢になった親が、我が子のひきこもりについて相談することができなくなったあとに本人にアプローチしたり、ひきこもり以外の関心事から本人と信頼関係を構築したりした例をみてきた。

川北稔『8050問題の深層「限界家族」をどう救うか』(NHK出版新書)

「ひきこもり支援」「就労支援」といった枠を越えて、一人の人が抱える悩みに対して包括的に、継続的にかかわっていくような支援の姿勢を、「伴走型支援」という。

40歳以上の無職やひきこもり状態の人を含め、8050問題の対応は始まったばかりといえる。介護をきっかけに家族にアプローチする介護関係者や、年齢や分野を問わない自立相談支援窓口の支援者による対応例は、今後も増えていくと思われる。一方、外部には窮状に思えても、本人や家族が支援者の提案をなかなか受け入れられない実情があるのも現実である。

限界に至るまで外部の支援から家庭を閉ざす人たち、支援を求めている反面、具体的な提案を受け入れにくい家族の姿がある。目標を狭く定めた縦割り型の相談ではなく、伴走型支援によって事態を打開していくことが求められている。

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