島精機が最初に製品化したコンピューター制御横編機は、オイルショック直後から開発の準備に入り、1978年に発表された。それを劇的に進化させたのが、無縫製型のホールガーメント編機である。

とはいえ、ホールガーメント編機が発表された当初、その真価をきちんと理解できた人は少なかったという。「東洋のマジックだ!」と称賛された機能に業界関係者の注目が集まったものの、単なる「高度なシームレス編機」といった認識だったらしい。

「縫い目がないという意味の英語はシームレスやけど、シームレスと聞くと、『シームレス・ストッキング』なんかを連想してしまう。大量生産された低級なもの、というイメージなんです。ホールガーメントはまったく違うのに、うちの社員でさえ、ちゃんとわかってなかった」と、島さんは嘆く。

四半世紀の時を経て、社会が追いついた

要するに、早すぎたのだろう。

つまり、島さんは「時代の先の、そのまた先」を見ていたのだ。

そして、ついに機は熟した。

梶山寿子『アパレルに革命を起こした男』(日経BP社)

近年になり、SDGs(Sustainable Development Goals・持続可能な開発目標)やESG(環境、社会、ガバナンス)が経営課題として浮上。サステナビリティは、あらゆる企業が取り組むべき重要なテーマとなった。

ホールガーメント編機に対する関心も、にわかに高まっている。

四半世紀の時を経て、ようやく社会が島さんに追いついたということ。

「SDGsのビジョンを体現するのがホールガーメントなんです」

そう胸を張る島さんの上着の衿には、SDGsのピンバッジが輝いている。

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