さらに「支援学級」や「通級」で必ずしも専門家からのケアが受けられないという事実もある。専門性の高い素晴らしい教師もいるが、そういう先生に出会えるかは運次第。

「米国で特別支援教育に当たるのは、州によっては修士号取得者以上。『支援が必要』と認定された子どもにプロが教育に当たるのは基本です。ところが日本では小学校や中学校の教員免許を持っていれば誰もが支援学級の先生になれてしまう。国には発達障害の専門免許や、通級や支援学級の専門免許の創設を望みます」

発達グレーゾーン

現状の支援体制からこぼれ落ちる「発達グレーゾーン」の存在もある。知的遅れがなく特性も僅かだが、周囲の無理解から思春期以降、うつ病など二次障害に発展する子もいる。

四谷学院の森常務(左)と保護者向けの教材。落ち着いて座っていられない子はどうしたらいいか。発達障害児に対する「空手の型」のような助言が書かれている。

そんな公立校の問題を知るなかで、代々木ゼミナールが発達障害児支援教育に参入するという週刊誌ニュースが飛び込んできた。お受験予備校の老舗が本気で発達障害児教育に参入したら、これは公立校の不足部分を補える可能性もあるのではないか。そもそも少子化時代において、子どもの数は減る一方だが、発達障害児のニーズは増加の一途をたどる。既存の公的療育センターはパンク状態で、キャンセル待ちを望む列ができている。民間企業がこの分野に参戦すれば、親には選択肢が増え、企業にとってはビジネスチャンスになるのではと、さっそく取材を開始した。

代ゼミはこの案件についてコメントを控えるとの回答だった。しかし、同じく大手予備校である四谷学院から話を聞くことができた。四谷学院は、実は10年以上もの発達障害児向け通信教育の実績を持つ。その背景にはどんなストーリーがあるのか、森みさ常務取締役に尋ねた。

「実は発達障害という言葉を知る以前から、私たちスタッフの間ではある疑問があったんです。難関大学に合格するほどなのに、奇妙なこだわりやちょっとしたことでパニックになってしまう受験生が常に一定数いるのはなぜなのか。ずば抜けた秀才がエレベーターのボタンをすべて押さなくては気がすまなかったり、有名大学進学後、周囲とのトラブルで引きこもりになってしまったり。彼らをどう理解し、どんな支援をしてくればよかったのか、そんな問題意識が出発点になっています」

四谷学院は、自閉症児の教育に専門的な知見を持つ私立武蔵野東学園と組み、教材開発や相談事業を行っている。19年からは新たに、教師や保育士、保護者のニーズに応える形で、独自の「発達障害児支援士」資格認定講座も立ち上げた。

だが、肝心の市場そのものの可能性について尋ねると「正直、予備校部門という本丸あってこそ可能」だともいう。「ほかの学習塾や予備校では講師1人に対して生徒100名といった大規模授業が展開できますが、こと発達障害に関しては個別指導や小集団授業が大前提。独自の教材開発にも莫大な時間とコストがかかり、回収には時間がかかります。事業採算は最優先ではありません」。