消費者団体幹部は「ゲノム遺伝子をいじるのは危険」と言うが…

ゲノム編集は、生物の持つ遺伝情報であるゲノムの狙ったところを切って、そこにある遺伝子を変異させる技術です。

生物のゲノムはDNAという化学物質で構成されていて、塩基が並んでいます。塩基はA,T,G,Cの4種類あり、どのような順番で並ぶか、という「塩基配列」が、遺伝情報そのものです。そして、長いDNAのところどころが遺伝子と呼ばれる部分です。

二重らせん状になったDNA。文字で表されているのが塩基対で、ATGCの並ぶ順番(配列)が遺伝情報となる。出典:農研機構リーフレット「ゲノム編集~新しい育種技術」

ゲノムを切る、と聞くと、とんでもない、と受け止められるかも。消費者団体幹部は「ゲノム遺伝子をいじるということは非常に危険なこと」と発言しました。しかし、DNAの切断は大昔からされている、ごく普通のことです。紫外線や放射線等がDNAを切り遺伝子の突然変異を引き起こします。農業の1万年の歴史の中で、人類は自然の突然変異によって良い性質になった植物を選び出して栽培し、作物化しました。

さらに、120年ほど前からは、おしべとめしべを掛け合わせる「交配育種」が、90年ほど前からは種子を放射線や化学物質にさらしてDNAを傷つけて遺伝子の性質を変える「突然変異育種」もはじまりました。人類はずっと「ゲノム遺伝子をいじる」ことを実行してきました。

こうした品種改良はまず、作物を処理してランダムにDNAを切り遺伝子を変異させています。その中から特定の遺伝子が変異して良い性質になっているものを選び出します。ただし、変えたくない遺伝子も往々にして変わっているので、品種改良する前の作物をさらに掛け合わせて元に戻してゆく「戻し交配」を行います。その過程で、「特定の遺伝子だけが変わっていて、それ以外の遺伝子は元に戻っている」という系統を選び出してゆきます。

酵素がゲノムの特定の部位を狙って切る

一方、ゲノム編集は、ゲノムの特定の塩基配列にくっつくところとDNAを切る酵素からなるセットを細胞に入れて、狙って切る、という原理です。DNAが切られても細胞は、元通りに修復する仕組みを持っていますが、時折、自然の修復ミスが起き、塩基配列の一部が欠けたり塩基が置き換わったり、新たに数塩基が挿入されたりします。それにより、その遺伝子の性質が変わります。

ハサミの役割を果たす酵素がDNAを切断し、修復ミスが起きた場合に、そこにある遺伝子の性質が変わる。出典:農研機構リーフレット「ゲノム編集~新しい育種技術

たとえば、イネのゲノムは全部で3億9000塩基対あり、3万2000個の遺伝子を持つ、とされています。ゲノム編集は、そのうちのたった1カ所を狙って切断し、1つの遺伝子を変えることで品種改良を行います。