大ピンチの13誌同時連載。新しい両さんと出会うのが楽しみに

撮影=小野田 陽一

ただ、じつは3本目を描いたあたりから手ごたえを感じて、むしろわくわくしてきました。同時掲載13誌のうち、7誌が女性誌です。普段『こち亀』に馴染なじみがない読者層に届けるには、いつもと切り口を変える必要がありますが、そうやって描いているうちに自分でも新しい両さんと出会えることが楽しくなってきたのです。

修羅場だったという13誌出張版はコミックスにまとめられている。秋元治『こちら葛飾区亀有公園前派出所999巻 13誌出張版の巻』(ジャンプコミックス)

たとえば『マーガレット』は乙女チックに、ロミオとジュリエットみたいな話を描きました。でも、普通に恋愛話をやるだけでは面白くないので、両さんを少女誌では絶対に出てこないロボットに化けさせました。ロボットは描くのに時間がかかるので、やってみたら「とんでもないこと思いついちゃったな」と後悔しましたが(笑)。

他にも『りぼん』は檸檬(※1)を主人公にして幼稚園の話にしたり、大人の女性向けの漫画誌(『Cookie』)では、両さんをマツコ・デラックスさん風に扮装させて、女性に「そんなんじゃだめよ。化粧はこうするのよ!」と指導させたり。少年誌では会えない両さんに会えたので、すごく新鮮でした。

(※1)擬宝珠檸檬……両津が住み込みで働く超神田寿司を経営する擬宝珠家の次女、両津のはとこ。祖母の夏春都の影響で時代劇が好きであり、語尾に「じゃ」とつけて話す。

ネタには困ることはまずない

僕と両さんに共通点があるならば、それは好奇心旺盛なことじゃないでしょうか。漫画でやりたいことは次から次にあるので、ネタに困ることはほとんどなかったですね。僕は昔からデジタルガジェットが大好きです。初期の『こち亀』は下町の日常生活を描く漫画で、ハイテク機器を登場させることを意識的に避けていました。その時代を象徴するものを登場させると、後で読んだときに古くさくなるんじゃないかと心配したからです。

でも、両さんを通して、読者の子どもたちに時代の変化を届けたいという思いもありました。そこで100巻を超えたあたりから、「たまごっち」などの流行はやりものをネタに使い始めたところ、思った以上に反響がよかった。それ以降、新しいガジェットが出たら自分で買って確かめて、チャンスがあれば漫画にも登場させています。いまはデジタルガジェットの進化が早くて、少し前までできなかったことが簡単にできるようになったりします。その意味でガジェットはネタの宝庫です。

新しく漫画に描きたいテーマが見つかれば、取材にも行きました。どうしても時間をつくれない場合は担当者に代理で行ってもらいましたが、僕はできるだけ自分で現場に足を運びたいタイプ。直接会って話を聞いてみると、想像していた以上の新しい発見があるからです。