それゆえか、実際に消費税率を上げたときに何が起こるのか、あるいは起きたのかについての基本的な事実が、世間にまったく知られていないのです。

実際に私の研究室で、エコノミストの島倉原さんとデータをさまざまに分析していく中で、「学者を押さえる」ということが、長期的にどれほど恐ろしい影響をもたらすかをまざまざと思い知りました。

まず、増税した瞬間に個人消費がほぼ増税分だけ減ります。なぜなら、家計の出費額はモノの購入と税金とに分けられますが、今どき国民の可処分所得の金額は増税する前でも後でも別に変わりませんから、家計の出費額もそのまま。だから、税金が増えればモノの購入額は必然的に減ります。単純な話です。すると、実質的な需要が減って、必然的に売れるモノが減るわけです。

この短期的な影響以上に恐ろしいのは、消費の伸び率への影響です。ご存じのように日本のGDP(国内総生産)の半分から6割程度を個人消費が占めるわけですが、その消費の「伸び率」は、税率が3%から5%に、5%から8%に上がった際、増税前の半分になっているのです。

図を見れば、消費税というものが実質消費の伸び率をほぼほぼ規定していることがクッキリとわかります。1997年に3%から5%、2014年に5%から8%に税率を上げたときの実質消費の伸び率が、ガクンと下がっていることがおわかりだと思います。08年のリーマンショックや11年の東日本大震災のときでも、そうした「伸び率の下落」はまったく見られません。消費増税が、GDP成長率に対する直接の大きな障害となっていることがよくわかります。

消費増税の一番の懸念は、私はここだと思っています。消費の伸び率が下がるということは、単に目先の消費の減少にとどまらず、10年、20年と、時間が経てば経つほど消費の減少という被害が拡大していくことを意味するのです。

財務省は、国の経済運営に責任を持たない

図では97年に消費税率を3%から5%に上げた場合(実測値)と上げなかった場合(推計値)の実質消費を比較したものです。ここ20年超の間に推計とはいえ実質消費がトータルで約6468兆円!もの減少。リーマンショック時の落ち込みによる推計被害総額約92兆円が可愛いものに見えますよね。

バブル崩壊後、日本経済は鈍化しつつも成長じたいは続けていました。しかし、消費税率を3%から5%に上げたこのとき、日本は右肩上がりのインフレ経済からデフレ経済に突入したのです。今にいたる日本の凋落は、このとき始まったのです。