日本と日本人の未来がどれだけ奪われたか

この間の経済の変化についての読者ご自身の肌感覚や、平成の日本の経済・産業史を思い起こしていただくと、消費増税以後の平成期に、日本と日本人の未来がどれだけ奪われたかが、容易にご想像いただけると思います。所得が減り、消費が減る。そして国民が貧困化し、経済が下落し、政府の収入、税収が減る。さらに国民経済の規模そのものも停滞し、衰退していく。国力そのものも相対的に下落し、国際社会における地位も低下しました。

財務省(写真上)の勝利。2013年8月、消費増税の影響を検証した経済財政諮問会議の集中点検会合(同下)に集まった学者は増税派ばかりだと批判された。(写真上)時事通信フォト、(同下)共同通信イメージズ=写真

かつては世界の18%を占めた日本のGDPも、今は6%程度です。尖閣列島問題が起こったのは、中国にGDPを抜かれた10年の9月でした。こうして日本は後進国化していくのです。単に、消費者がかわいそうだから、というだけが増税反対の理由ではありません。

このうえ、さらに税率が8%から10%に上がれば、日本の衰退がさらに加速することは明白です。私は学位論文を計量経済学で取った後、留学先で心理学を学び、現在は心理学のテキストや辞典を編纂中ですが、そんな中で常識的に知られている心理的概念の1つに「税の顕著性」というのがあります。

10%で税金の計算がしやすくなり、それを通じて、消費減退効果が拡大することが理論的にも実証的にも明らかにされています。詳細は省略しますが、これまでの税率アップより大きな消費減退効果をもたらす可能性があるのです。

増税派は「日本はまだ8%。よその国は20%もあるじゃないか」と反論してきますが、私が問題視しているのは、「税率の水準」ではなく「税率の変化」です。インフレ時に税率を上げても大した問題にはなりませんが、デフレのときに税率を上げると前述した通りの巨大なダメージが生じるのです。だから高度成長期に消費税を導入して少しずつ税率を上げていれば、20%でも30%でも問題なかったでしょうが、デフレの今は上げてはだめなのです。

ちなみに、イギリスやカナダの財務省設置法、あるいはそれに類する文書には、財務省の設置目標の中に「経済運営」や「経済成長」が入っています。財政出動の大小で経済成長が左右されるからです。だから財務省が経済成長についての責任を負うのは当然なのです。

しかし、日本の財務省の設置目標にはそれがありません。あるのは「財政の健全化」だけ。ここに日本経済最大の問題の根幹があるのです。日本の財務官僚には、財政や税制が経済に及ぼす影響に配慮すべき義務が、正式には存在しないのです。