大和ハウスのマネをしない積水ハウスの独自戦略

ではなぜ、積水ハウスは国際事業の在庫を増やしているのか。

それは、積水ハウスを取り巻く経営環境を考えれば、ある意味必然なのかもしれない。

国内の住宅市場の将来を考えれば、人口減少や少子高齢化によって、徐々に需要が衰退することが目に見えている。国内の個人向け住宅という、しぼんでゆくマーケットの中でシェア争いするのは、あまり得策ではない。

その点、業界1位の大和ハウス工業は、早くから「事業施設事業」や「商業施設事業」といった法人向けの事業を手掛け、事業を多角化している。だから住宅市場の冷え込みによるダメージはそれほど大きくない。

とくに「事業施設事業」は、物流施設等の受注増により、この10年で5倍以上に売上高を伸ばしている。EC市場の爆発的な拡大を見越し、物流施設建築の需要を取り込めたのは、大和ハウス工業の「先見の明」といえよう。

これに対して積水ハウスはどうだろう。医療施設や商業ビルなども手掛けているが、やはり中心は個人向けのため、住宅市場の影響をまともに受けてしまう。とくに、戸建住宅事業については、市場の縮小とともに、売り上げが急速に低下している。だからといって、今さら大和ハウス工業のマネをしても太刀打ちできないだろう。

国際事業の棚卸資産は売上増加の起爆剤

積水ハウスはもともと品質や技術力に定評がある会社だ。阪神淡路大震災の時に積水ハウスの住宅は全半壊ゼロだったというのは有名な話である。

そこで、個人向けというターゲットは変えず、国内で磨いてきたハウスメーカーとしての技術を、海外に向けて展開する戦略に打って出たのだろう。

積水ハウスは、2009年のオーストラリアへの事業進出を皮切りに、米国、中国、シンガポールの4カ国に国際展開している。初めのうちは低空飛行の状態だったが、徐々に実績が表れ、ここ数年は戸建住宅事業の落ち込みを補って余りあるぐらいに売り上げを伸ばしている(図表7参照)。

2017年に米国のハウスメーカー、ウッドサイド・ホームズ社を買収したのに加え、2020年1月期を最終年度とする経営計画では、3年間で1兆円強を国際事業に投じる戦略も打ち立てた。

気候、商慣習や生活スタイルなど(もちろん地震の有無も)、何もかも異なる海外の不動産市場において、日本のハウスメーカーが付け入る隙はないと思うかもしれない。

しかし、この10年にわたる国際事業の実績で、積水ハウスはある程度の見通しと確信が生まれたのだろう。それが、国際事業の棚卸資産の増加に反映されているといえる。国際事業の棚卸資産を発射台とし、売上増加の起爆剤とする意図が読み取れる。