日銀の負債がほとんどゼロであるカラクリ

発行銀行券が日銀の「負債」となることは前項で述べた。しかし、負債とはいえ、銀行券に対して日銀が利子を支払うことはない。ここが日銀のBSを読むときのひとつのポイントである。

別の「負債」である「当座預金」はどうか。当座預金とは、一般的には小切手や手形などの決済専用の口座のことを指し、民間金融機関においては無利子である。これは法令で定められている。

しかし、実は日銀の当座預金に関しては、民間金融機関は利子を受け取っている。

本来は不合理な話なのだが、リーマンショック後の2008年10月、資金供給円滑化のための措置として日銀は補完当座預金制度を導入した。

金融機関には「準備預金制度」といって「受け入れている預金等の一定比率以上の金額を日本銀行に預け入れること」が義務づけられている。金融機関は必ずいくらかの金額を日銀に預けておかなければならない、ということだ。

補完当座預金制度によって日銀は、一定比率以上の金額つまり法定準備預金額を上回って預けている金額=超過準備金に対して利子をつけることにした。いわば、日銀の金融機関への「お小遣い」のようなものである。企業を経営している人なら、企業の金融機関への当座預金は無利子であることを知っているだろう。企融機関の日銀への当座預金は利子が付いているわけで、この意味で金融機関の「お小遣い」なのだ。

ただし、日銀は2016年、「マイナス金利政策」を実施して話題になった。

これはつまり以前の補完当座預金制度とは逆で、「これからは超過準備金に対しては利子を取りますよ」ということである。2008年以来、利子がもらえていたのに取られることへ逆転したので民間金融機関は大騒ぎをしたが、ここは正確な理解が必要だ。日銀当座預金は400兆円程度ある。しかし、マイナス金利が適用になるのはほんの一部である。ほとんどの部分にプラスの金利が付与されており、金融機関が日銀からお小遣いをもらっている状況に変わりはない。

ともあれ、「当座預金」は「銀行発行券」といつでも代替でき、「銀行発行券」は日銀にとって負債ではあっても無利子・無償還で実質的な借金ではないと言うことができる。つまり、返す必要のないお金だ。

したがって日銀のBSにおいて、「負債」は実質ほとんどゼロとして読むことができる。つまり日銀の「資産」は、国債分の約474兆円と読むことができるのである。

実は国の財務状況は心配するレベルではない

これを政府のBSに連結してみよう。日銀の資産474兆円が、ほぼそのまま政府の「資産」に加わることになる。政府の「資産・負債差額」はマイナス568兆円からマイナス94兆円まで下がる。

すでに述べたが、政府のBSは負債がちょっと多いくらいでも問題はない。一般に公開されており、かつまたネットで簡単に入手できるBSを読みさえすれば、日本政府の財務状況は問題のない健全なレベルにあることがすぐにわかる。

逆に言えば、国の借金1000兆円などといって騒いでいる人は、それすらしていない残念な人、または知識の薄い国民を騙そうとしている人ということになる。

政府と中央銀行のBSを連結したものは「統合BS」と呼ばれている。統合BSで政府の財務状況を見るのは世界の常識だ。