登下校に大人が付き添うのは当たり前

いわば社会全体が誘拐された子ども捜しに協力しているわけです。子どもの登下校に大人がついていくのは常識で、「子どもを一人で登校させるなんて日本は大丈夫なのか?」と驚かれるほどです。

また日本のオービスのような交通違反を監視するカメラも多数設置されており、いまや中国の交通違反の多くはカメラによって取り締まられています。カメラが多い大都市部では明らかにマナーが向上し、交通違反が減っていることが実感されます。

誘拐犯がすぐ捕まるなど治安が向上する、交通違反が減少する……といったメリットもあるのですが、こういった統治テクノロジーが進んだことによって中国社会はどう変わりつつあるのでしょうか。まず言えるのは、特に大都市を中心に「お行儀のいい社会」になりつつあるということです。

中国社会というと、一時期は非常にアグレッシブで、カオスのようなエネルギーにあふれている社会(悪く言えば決まりがあっても守らないで自分勝手な解釈で行動する社会)というのが一般的なイメージだったように思いますが、そういった姿は変わりつつあります。

事実、治安が劇的に改善している

以前に中国を訪問した経験のある人が、現在の大都市を訪問すると如実にその変化を感じるでしょう。例えば、『人民日報』は、2017年に中国では人口10万人あたりの殺人件数が0.81件しかない、殺人発生件数の最も低い国の1つになったと報じています。あるいは暴行罪の件数は2012年より51.8%減少し、重大交通事故の発生率は43.8%減少。社会治安に対する人々の満足度は、2012年の87.55%から2017年の95.55%に上昇した、と(『人民網日本語版』2018年1月25日)。

言うまでもなく『人民日報』は中国共産党の機関紙ですから、プロパガンダの一種ではあるのですが、あながち嘘でもないと思います。殺人だとか暴力的な犯罪が劇的に減っている、いたるところに監視カメラが仕掛けられているので、落し物をネコババされることがなくなり、貴重品を落としても見つかるようになった、という声を在中日本人の実感として聞く機会も増えてきました。

大規模デモに発展した「逃亡犯条例」

こういった中国社会における監視カメラの設置に対し、明確な拒否反応を示しているのは、むしろ香港の人びとかもしれません。

2019年6月9日、香港の林鄭月娥りんていげつが行政長官が議会に提出した、容疑者を裁判を行うために中国本土に引き渡すことを可能にする「逃亡犯条例」改正案に強く反対する市民や学生約100万人がデモを行いました。同12日にはデモ隊の一部と警官隊との間に激しい衝突が生じ、警官隊が催涙弾やゴム弾を用いた実力行使による排除を行うと、16日には香港中心部は反発を強めた200万人近くの市民により埋め尽くされました。