誘拐事件が24時間以内に解決した

現在、こうしたAIカメラは最低でも2000万台以上が存在します。習近平政権の業績を紹介するCCTVの特番『煌輝中国』の第5話「安全のシェア」では、「中国はすでに2000万台以上のAIカメラを擁する、世界最大の監視カメラ網を築いた。この『中国天網』という巨大プロジェクトは市民を守る目だ」と放送しています。

「中国天網」、すなわち天網工程(スカイネット)は都市部にAI化、ネットワーク化した監視カメラ網を構築するプロジェクトです。2015年からは県や鎮、村など田舎にも同様の監視カメラ網を構築する雪亮工程せつりょうこうていもスタートしています。天網工程の2000万台に加え、雪亮工程や民間企業が独自に設置したカメラを加えると、2000万台をはるかに上回る監視カメラが、顔認識、画像認識など動画を判断する能力を持ったものに変わっているわけです。

その成功例とされているのが2017年に深圳市龍崗区で起きた誘拐事件です。同区の監視カメラ網はファーウェイ社によって構築されたものです。事件が起きたあと、警察は誘拐された子どもの特徴を入力して、すぐに子どもと誘拐犯の居場所を特定しました。その結果、子どもは誘拐されてから24時間もたたないうちに親元に帰ることができました。

「404 Not Found」ページに子どもの失踪情報

日本にも監視カメラはありますが、その運用状況は中国とはまったく違います。例えば2019年6月、大阪府吹田市の交番で警官が襲撃される事件がありました。警察は容疑者の行方を、監視カメラ映像を頼りに追いましたが、ネットワーク化・AI化されていないため、映像の入手・分析のために各所を駆けずり回る必要がありました。

事件から約24時間で容疑者が逮捕されるというスピード解決ではありましたが、前述の深圳の誘拐事件と比べれば、警察が費やした労力は段違いです。警官襲撃という大事件ならば多くの人員が投入されるでしょうが、すべての事件でこれだけの捜査を行うことは難しそうです。

深圳の誘拐事件は、中国人がなぜ監視カメラを容認しているかを示す象徴的な事件です。中国では誘拐は極めて身近な脅威です。2011年には608人が関与した人身売買組織が摘発され、178人もの子どもが救出される事件がありました。インターネットでページが削除されたことを示す、いわゆる「404 Not Found」ページがありますが、中国は大半の企業が誘拐された子どもの捜索情報をここに表示しています。