開票日の午後までは「3分の2」の手応えを感じていた

21日の投開票日。安倍氏のもとには「自民党の議席数は60を超える」という予想が伝わっていた。報道各社が行った「出口調査」では秋田、岩手、宮城、山形、新潟、滋賀、大分などの1人区は自民党の候補と野党統一候補が激しく競り合っていたが、20日までの期日前投票では自民党を支援する団体や、公明党を支持する創価学会員が多く投票している。最終的には接戦区の大部分は勝てるだろうという読みだったのだ。

公明、維新で20数議席を確保するとみられていたので、自民党が60議席以上の議席をとれば「3分の2ライン」の85に届く。安倍氏にとっては朗報だった。

安倍氏は同日午後5時半から約1時間程度、東京・富ケ谷の私邸で麻生太郎副総理兼財務相と2人で話し込んでいる。産経新聞によると、この席で安倍氏は今後の政治日程に触れ「憲法改正をやるつもりだ」と語ったという。この段階では「3分の2」を取れると思っていたのだろう。

結果として「ぬか喜び」になってしまった

そして、同日夜、マスコミ各社の取材にも麻生氏に伝えた内容と同じトーンの話をして改憲に向けてアクセルを踏む考えだったのだろう。例えば「3分の2を維持する力を与えていただいた。改憲発議に向けて進める。それが審判だ」などというようなセリフを準備していたのではないか。

ところが、ふたを開けてみると、先に触れた7選挙区は競り負けてしまった。そして改憲勢力は3分の2を割り込んだ。結果として「ぬか喜び」になってしまった。当日、安倍氏はテレビカメラの前では笑顔を絶やさず「勝ち組の将」を装っていたが、内心は穏やかでなかったのは間違いない。

「3分の2維持」を念頭に置いてコメントをつくりあげていただけに「3分の2割れ」となっても、改憲を進めるという路線を変えられなかった。そこで改憲の「議論をする」という表現に微調整して、冒頭のような発言となったのではないか。