心臓移植3カ月待ちの米国、3年待ちの日本
こうした前澤氏の発言に対し、医療関係者の多くは違和感をもつだろう。なぜなら、米国でもドナー(臓器提供者)は不足しているからだ。日本人が渡航移植するということは、助かるはずだった米国人患者が助からなくなるだけで、救える命の総数は変わらない。
旺典ちゃんを受け入れるコロンビア大学では心臓移植の5%を外国人に割り当てる制度がある。これは本来、自国内では心臓移植が不可能な発展途上国の患者を対象にしたものである。いかなる事情で旺典ちゃんの移植がかなったのか、その経緯は私にはわからない。
ここで日本とは異なるアメリカの医療現場の「事情」を説明しよう。
「命は経済力で決まる」のがアメリカ
米国の医療費はべらぼうに高い。よって、交通事故などで高度(=高額)医療を受けた後に脳死に至ったケースではその支払いに困る人は少なくない。そこで、臓器提供者になることで医療費の一部をレシピエント(移植を受ける患者)に支払ってもらう制度を利用するため、臓器提供に同意する家族もいる。
重い心臓病で心臓移植を希望しても、待機期間中には人工心臓や強心薬などの医療費もかさむので、経済力が続かない患者はウェイティングリストから脱落してゆく、というシビアな現実もある。
命を永らえることができるかどうかは経済力で決まる。それがアメリカだ。
では、日本はどうか。日本には高額療養費制度があるので治療が高度になるほど自己負担率は減る。脳死となった人の家族がその治療費に苦しむというケースもまれである。また心臓移植待機患者も各種の経済的助成が受けられるため、米国人患者ほどの経済的困窮はなく、“脱落”しにくい。ただし、臓器提供者は極めて少ない。そして移植を受けるレシピエントは投薬などにより比較的長生きが可能で、その結果、移植待機患者も増える一方なのだ。
脳死後の臓器提供者は、日本では年あたり数十人だが、米国では8000~9000人となり、「ドナーが多い米国は移植まで2~3カ月待ち」「少ない日本は2~3年待ち」というのが、脳死心臓移植の現状である。