米国だって移植臓器は足りていない
「米国はドナーが多い」と言っても「日本よりは多い」だけであり、米国でも移植待機患者に対するドナーは圧倒的に足りない。人気医療ドラマ『グレイズ・アナトミー』のシーズン2では、「受け持ち患者(担当医の恋人という設定)の移植優先順位を上げようと人工心臓に細工する女医」が登場するし、同シーズン5では「移植の直前で臓器を横取りされた患者」も登場し、米国でのドナー不足をリアルに描いている。
2012年、ブッシュ(息子)政権下で副大統領を務めたディック・チェイニー氏が71歳で心臓移植を受けたが、「もっと若い患者に譲るべき」「裏でカネ・コネを使ったのではないか」など、米国内でも激しい批判にさらされた。2019年4月公開の映画『バイス』はチェイニー氏をモデルにした“フィクション”だが、この心臓移植についても皮肉たっぷりに映像化されている。
海外での心臓移植費用が高騰しているワケ
実は2008年以降、海外での心臓移植費用は高騰している。
というのも、2008年に国際移植学会は「臓器取引と移植ツーリズムに関するイスタンブール宣言」を採択し、「自国内での臓器移植」「臓器売買の禁止」を促したからである。この流れを受けて、米国の移植手術を引き受ける病院は患者側に高額デポジットを請求することで事実上の渡航移植制限をするようになり、どうしても渡航移植を希望する患者は数億円を準備することが必要になったのだ。
日本国内でも2010年には改正臓器移植法が施行され、「本人の意思表示がなくても家族の同意で提供可能」「15歳未満の臓器提供も可能」となり、脳死ドナー数も「年あたり数件→数10件」レベルに微増した。だが、これでは待機患者数には遠く及ばず、特に6歳未満については「年間0~2例」という絶望的な数にとどまっている。
また「生体移植」の可能な肝臓や腎臓については、日本国内では「死体移植」よりも主流となっている。外務大臣の河野太郎氏が実父の河野洋平氏に肝臓を提供したことは有名だが、養子制度を悪用した暴力団による臓器売買も発覚している。また、生体肝移植・腎移植では、ドナー患者の死亡例も報告されている。
こうしたリスクを考えると可能な限り「死体移植」を推進し、次善の策として「生体移植」を活用するのがベストだろう。