やっぱり「最初に就職する会社」は本当に大事
【山田】別の業務への異動なら、「まったく別の業務を会社から任された」と考えられれば目線が変わるし、次の場所でも、それまでの経験を活かせるはず。前にいたところでとても頑張っていたのだったら、それはなおさらです。先入観から勝手に「仕事が断絶してしまった」と認識しているだけで、それこそ金融とITがリンクしていたように。じつはどこかでつながっていたりする。『置かれた場所で咲きなさい』(渡辺和子著、幻冬舎)ではないですが、大きな布のどこか一点をつまんで動かすと、全体も動く。一つだけでも深くやっておくと、全体も深く沈んでいくというか、一緒に動いていく。
【成毛】現実として、どこか一点を深く掘っていくと、そのまま次につながることもあると。
【山田】僕の場合、会社に残るという「決断」をしてよかった、というバイアスが働いた意見なのかもしれません。ただ実際に、会社に残って納得のいく仕事ができている身として、できるアドバイスはそうなります。この先もし辞めたら、今度は「辞めるという『決断』をしてよかった」といい出すかもしれませんが。ただ、会社を離れて、フリーとして苦労している同僚を何人か見ていて、「残っていれば良かったのに」と感じることが多々あるのも事実です。こればかりは誰にも、感情にも流されず、自分で「決断」するしかない。それと今さらではありますが、社会に出て、最初に就職する会社が本当に大事だと思います。
「会社が急激に変わると思っていない」という落とし穴
【成毛】山田さんの話を聞いていると、いい会社に入れたら、無用な「決断」はいらない、という結論にもなりますから。ただ、実際にはあまりよくない会社も多いから、もしそこにいたのなら、辞めるという「決断」をすることは大事だと。
【山田】19年の今だと、売り手市場ですし、大胆に考えておいた方が、後から余計な「決断」をしないで済むかも、ということはあるのかもしれません。僕の場合、結果論といえば結果論なのは事実です。一つの場所で頑張っているうち、その場所の方が、いつのまにかいい環境になったわけですから。東洋経済新報社は、この数年で、給与水準の向上もそうですが、働き方改革もかなり進みました。好調な書籍部門も、以前は年に300から400冊ほど出していた点数を、100冊未満にまで絞り、点数重視から内容重視へ切り替えました。その分、現場も楽になったのではないでしょうか。
【成毛】つまり、個人のキャリアがどう、仕事がどう、ということは横に置いておいて、勤めている会社そのものの調子がいいときは、そこに留まっていた方がいい、という当たり前の話であって。逆に会社や業界の状況が本当に悪くなり、これはもう転げ落ちそうだ、ということになれば、やはり「辞める」という「決断」をするべきなのだろうと。ちなみに落ちていくとき、会社は本当に恐ろしい勢いでガラガラと変わってしまいます。でも現場で働いている人からすると、会社がそこまで急激に変わるとは思わない。それも「決断」を誤る理由の一つなのかもしれません。
書評サイト「HONZ」代表
1955年、北海道生まれ。79年、中央大学商学部卒。自動車メーカー、アスキーなどを経て、86年マイクロソフト(株)に入社。91年、同社代表取締役社長に就任。00年に退社後、投資コンサルティング会社(株)インスパイアを設立、代表取締役社長に就任。08年、取締役ファウンダーに。10年、書評サイト「HONZ」を開設、代表を務める。元早稲田大学ビジネススクール客員教授。著書に主な著書に『面白い本』『もっと面白い本』(岩波書店)、『定年まで待つな!』(PHPビジネス新書)、『amazon』(ダイヤモンド社)など多数。
山田 俊浩(やまだ・としひろ)
『週刊東洋経済』編集長
1971年、埼玉県出身。早稲田大学政治経済学部政治学科卒、93年東洋経済新報社入社。整理部を経て、記者として精密、情報通信、金融、電機など幅広い産業分野を取材。2014年7月から東洋経済オンライン編集長を務める。月間2億PV以上に成長させ、ネットメディアの世界で独走態勢を築く。19年1月『週刊東洋経済』編集長に就任。著書に『稀代の勝負師―孫正義の将来』(東洋経済新報社)がある。