ニュー新橋ビルにはマッサージ店やアダルトショップが増えた
ニュー新橋ビルの2階には「ポワ」と「サンマルコ」という喫茶店があったのだが、両店とも閉めていた。どちらもおいしいナポリタンを出していたお店だけに残念だ。「ポア」のナポリタンは、いかにも喫茶店のナポリタンというイメージだったのに対して、「サンマルコ」のナポリタンはみそ汁や小鉢もついてきて、家庭のナポリタンといった雰囲気だった。
それと対照的に、ニュー新橋ビルの2階には最近、マッサージ店やアダルトショップがたくさん入っている。マッサージ店の女性に声をかけられながら歩いていると「飲み処 うみねこ」という店がランチでナポリタンを出しているのを見つけた。ものは試しと入ってみた。
ランチはナポリタンのほかに焼きそば、カレーライスがある。いずれもドリンクがついて650円。けっこうリーズナブルだ。店名からわかるように夜はお酒が飲めるお店になるようだ。
ナポリタンを注文した。あとからやってきたサラリーマン風の男性もナポリタンを注文するも売り切れだと言われ、しぶしぶ焼きそばを注文していた。
カウンターの向こう側に厨房があり、ナポリタンが炒められている。他店より炒め時間が長い。目の前のテーブルに置かれたナポリタンは茹で置きをした太麺。やはりケチャップ味でバターがかおる、新橋系のナポリタンだ。店主の小松原美穂さんによれば、店のオープンは2015年3月。昭和ではなく平成ではないか。平成に開店したお店でも昭和ナポリタンを出すお店があったのだ。小松原さんに聞いてみると……。
Yシャツにオレンジ色のソースが飛ばないようによく炒める
――新橋系のナポリタンを研究されてこういう形になったのですか?
「母親から教えられたレシピです。麺は太いほうがおいしいと教えてもらって」
――新橋系のナポリタンで食べたところがありましたか?
「『ポア』さんではいただきました。おいしかったですよ」
――きょうはナポリタンが売り切れでしたが、やはり人気があるんですか?
「たまたまですね。ナポリタンは茹で置きの麺など準備が必要ですから、数に限りがありますので」
こちらのランチタイムは11:30~14:00。確実にナポリタンにありつくには早い時間帯がよさそうだ。
この店のナポリタンも旧来の新橋系のナポリタン同様に粘度が極めて高い。よく炒められ、水分が飛んでいるのだ。実はこうして水分を飛ばすことで粘度が高くなる。以前、ある店の人に聞いたが、新橋系のナポリタンが粘度の高い理由は「お客さん(主にサラリーマン)が着用しているのは白いワイシャツなので、そこにオレンジ色のソースが飛ばないために水気をできるだけなくしている」ということだった。さりげない気遣いが、粘度が高いリーマンパスタの生みの親だったわけだ。
昭和のナポリタン、平成のナポリタン、僕は両方好きだが、令和のナポリタンはどうなるのだろうか。すてきな令和のナポリタンに出会ったら、またリポートしたい。
コラムニスト
1958(昭和33)年、山口県生まれ。桃山学院大学卒。フリーターなどを経て、ライターとなる。主な著書に『まな板の上のマグロ』『アブない人びと』(幻冬舎文庫)、『歩考力―「ひと駅歩き」からはじめる生活リストラクチャリング』(National Business)など。本名の増田剛己にて、オールアバウトの散歩ガイド。