▼錦織 圭
言葉選びにご用心!「リベンジ」は絶対に使ってはダメ

発音や文法ミスより重大な問題

実を言うと、錦織圭のスピーチには重大な欠陥がある。それも、些末な発音や文法ミスの問題ではない。国際舞台でやってはいけない禁忌を数多く犯してしまっている。19年のブリスベン国際でのスピーチを検証してみよう。

錦織 圭氏(AFLO=写真)

最初に説明した「形式」に基づき、フェデラー、ナダル、ジョコビッチはまず対戦相手をたたえるところから始める。ところが、錦織はこのスピーチも「私はやっとこの大会で優勝できて嬉しいです。私がこの大会に出場するようになって7回目か8回目……」と「私」(I)のことばかり話し、対戦相手への労いがない。

やっと「Congrats to Daniel」(ダニエルに労いを)と対戦相手に言及するが、この日の相手は「ダニール・メドヴェージェフ」つまり「ダニエル」ではない。なお、19年全豪オープン4回戦でカレーニョ・ブスタに勝ったときも、2試合前のカルロヴィッチと名前を間違えている。この時点で失格である。

次に、「昨年日本での決勝で彼に負けていて……」とある意味「歴史」を語るが、その次に「Lovely to have a revenge」(復讐できて嬉しかった)と言ってしまった。英語圏でRevengeとは、映画「ブレイブハート」に出てくる、新妻を領主に殺されたウィリアム・ウォレスが決起するときに使う言葉である。断じてスポーツで使う言葉ではない。

人生の半分以上を米国で過ごし、10年以上ATPツアーに参加している錦織には、弁明の余地がない。一体周囲は何をしていたのか。なまじ相手に通じる英語を話しているからこそ、この問題は深刻なのだ。

錦織のスピーチの特徴は、主語の大部分が「I」ということだ。Youが出てくるのは、「you know」と息継ぎをするときだけと言っても過言ではない。you knowを多用すると、いかにも頭が悪そうに見えてしまう。

錦織のスピーチを改善するには、まず対戦相手をたたえることを最優先にすることだ。そして可能な限り主語がIの文章を減らしてYouについて言及すること。この場合のYouとは「対戦相手」とか「大会ディレクター」など特定の個人の場合もあるが「ファンの皆さま」「一般大衆」という意味もある。Youへの感謝を増やせば、最低限の改善はできるだろう。フェデラーとジョコビッチがどんなスピーチをしているか、実例を挙げたので参考にしてほしい。(文中敬称略)

タカ大丸
翻訳家・通訳者・ジャーナリスト
1979年生まれ。2000年米国ニューヨーク州立大学ポツダム校入学。イスラエルのテル・アヴィヴ大学にも交換留学。英語とスペイン語の多言語話者。