賢い生き物は競合者と「争う」ことをせず、「ずらす」

※写真はイメージです(写真=iStock.com/bee32)

ニッチを確保したとしても、永遠にナンバー1であり続けるわけではない。すべての生物が生息範囲を広げようとしているから、ニッチが重なるときもある。あるいは、新たな生物がニッチを侵してくるかもしれない。

一つのニッチには、一つの生き物しか生存することができない。そこでは、さぞかし激しい競争や争いが繰り広げられることだろうと思うが、必ずしもそうではない。

生物の世界では負けるということは、この世の中から消滅することを意味する。「当たって砕けろ」とか、「逃げずに戦え」とか、「絶対に負けられない戦いがある」などと、人間が威勢の良いことを言えるのは、人間が負けても大丈夫な環境にいるからだ。

生物は、負けたら終わりだ。絶対に負けられない戦いがあるとすれば、できれば「戦いたくない」というのが本音だ。しかも、勝者は生き残ると言っても、戦いが激しければ勝者にもダメージはある。あるいは、戦いにばかりエネルギーを費やしていると、環境の変化など降りかかる逆境を克服するエネルギーまで奪われてしまう。

そのため、できる限り「戦わない」というのが、生物の戦略の一つになる。とはいえ、大切なニッチを譲り渡して逃げてばかりもいられない。どこかで、ナンバー1でなければ、生き残ることはできないのだ。

そこで生物は、自分のニッチを軸足にして、近い環境や条件でナンバー1になる場所を探していく。つまり、「ずらす」のである。この「ずらす戦略」はニッチシフトと呼ばれている。

ニッチの領域をどのようにズラせばいいのか?

ずらし方は、さまざまである。

ゾウリムシの例のように、水槽の上の方と、水槽の底の方というように、場所をずらすという方法もある。もちろん、同じ場所にさまざまな生物が共存して棲むこともある。アフリカのサバンナではシマウマは草原の草を食べて、キリンは高い木の葉を食べている。このように同じ場所でもエサをずらすという方法もある。あるいは、昼に活動するものと夜に活動するものというように、時間をずらすという方法もある。植物や昆虫であれば、季節をずらすという方法もあるだろう。

このように条件のいずれかをずらすことで、すべての生物はナンバー1になれるオンリー1の場所を見出しているのである。そしてニッチをずらし分け合いながら生物は進化を遂げてきたのだ。

もちろん、このニッチという考え方は、生物種単位での生き残りの話であって、個体それぞれの戦略ではない。しかし、私たち人間社会の生存戦略にとっても示唆に富む話ではないだろうか。

(写真=iStock.com)
関連記事
"京都の町並み"が急速に壊れつつあるワケ
"教室カースト"底辺の子の親がすべきこと
“茨城の底辺校”が進学校に変身した理由
東大祝辞の核心「日本は世界一冷たい国」
姉の結婚にエールを送る"佳子の乱"の意味