※本稿は、稲垣栄洋『敗者の生命史38億年』(PHPエディターズ・グループ)の一部を再編集したものです。
自然界では「ナンバー1」しか生き残れない
ヒット曲「世界に一つだけの花」では「ナンバー1にならなくても、もともと特別なオンリー1なのだからそれでいい」という内容の歌詞がある。
この有名なフレーズに対しては、二つの意見がある。
一つは、この歌詞のとおり、オンリー1が大切という意見である。競争に勝つことがすべてではない。ナンバー1でなければいけないということはない。私たち一人ひとりは特別な個性ある存在なのだから、オンリー1で良いのではないか、という意見である。
これに対して反対意見もある。世の中は競争社会である。オンリー1で良いなどという甘いことを言っていれば生き残れない。やはりナンバー1を目指すべきだ、という意見である。
オンリー1で良いのか、それともナンバー1を目指すべきか。あなたは、どちらの考えに賛同されるだろうか?
生命の38億年の歴史は、この歌詞に対して明確な答えを持っている。
ナンバー1しか生きられない。これが自然界の鉄則である。たとえば、ゾウリムシだ。一つの水槽に入れた二種類のゾウリムシは、どちらかが滅びるまで、競い合い、争い合う。そして、勝者が生き残り、敗者は滅びゆくのである。
ナンバー1しか生き残れない。これが自然界の厳しい掟である。人間の世界であれば、ナンバー2は銀メダルを授かって、称えられる。しかし、自然界にはナンバー2は存在しない。ナンバー2は滅びゆく敗者でしかないのである。
ただし、「ナンバー1」を分け合うことができれば共存できる
しかし、不思議なことがある。
ナンバー1しか生き残れないとすれば、地球にはただ一種の生き物しか存在しないことになる。ところが、自然界を見渡せば、さまざまな生き物たちが暮らしている。ナンバー1しか生きられない自然界で、どのようにして多くの生物が共存しているのだろうか?
ゾウリムシの別の実験では、二種類のゾウリムシが共存する結果となった。それは、一種のゾウリムシが水槽の上で暮らしながら大腸菌を餌にしているのに対して、もう一種のゾウリムシは、水槽の底の方にいて、酵母菌を餌にしていたのだ。つまり、一つは水槽の上のナンバー1であり、もう一つは水槽の下のナンバー1だったのである。
このように、ナンバー1を分け合うことができれば、共存を果たすことができるのである。