狭小のニッチの世界で1位に輝くことで生き延びる

このナンバー1になれる場所をニッチと言った。ニッチはその生物だけの場所である。つまり、オンリー1の場所だ。

このようにすべての生物は、オンリー1であり、ナンバー1でもあるのである。地球のどこかにニッチを見いだすことができた生物は生き残り、ニッチを見つけることができなかった生物は滅んでいった。自然界はニッチをめぐる争いなのである。

それでは、どのようにすれば、ニッチを見いだすことができるだろうか。ナンバー1になるには、どうしたら良いのだろうか。

たとえば、野球でナンバー1になることを考えてみよう。世界でナンバー1になるのは並大抵ではない。それでは、日本に限定してみよう。高校野球で日本一になることは、世界一よりは易しいかもしれないが、それでも実現できるのは一握りの選手だけである。それならば、都道府県でナンバー1はどうだろう。それが無理ならば市町村でナンバー1、それも無理なら、学区でナンバー1でもいい。

このように範囲を小さくすれば、ナンバー1になりやすい。つまり、ニッチは小さいほうが良いのだ。ナンバー1であり続けなければ生き残ることができないのだから、どんなに強豪チームであったとしても、世界一であり続けるよりも、学区でナンバー1を維持し続けることを選ぶだろう。

生物はニッチを細分化して、分け合って生きている

しかも、野球でナンバー1になる方法は、いくらでもある。

稲垣栄洋『敗者の生命史38億年』(PHPエディターズ・グループ)

野球の試合で勝負するのではなく、片方のチームが打力でナンバー1であり、相手のチームが守備でナンバー1であれば、どちらも勝者となる。ベースランニングがナンバー1であってもいいし、キャッチボールの正確さがナンバー1であってもいい。ベンチの声の大きさがナンバー1かもしれないし、プロ野球の選手の名前を誰よりも覚えているというナンバー1もいるかもしれない。このように、条件を小さく細かく区切っていけば、ナンバー1になるチャンスが生まれてくるのである。

マーケティングなどではニッチ市場というと、すき間にある小さなマーケットを意味する。生物の世界では、ニッチにはすき間という意味はない。ニッチは大きくても良いのだ。しかし、大きいニッチを維持することは難しいから、すべての生物が小さなニッチを守っている。こうしてニッチを細分化して、分け合っているのである。

ナンバー1になる方法はたくさんある。だからこそ、地球上にはこれだけ多くの生物が存在しているのである。