「信を問う」とは首相にしか許されないフレーズ
しかも萩生田氏は、増税を見送る場合「信を問う」という表現で衆院解散・総選挙の可能性もちらつかせている。もちろん大阪でG20が迫っていることを理由に衆参同日選には否定的見解を示してはいるものの「信を問う」というフレーズは首相のみが使うのが許される。一議員が使う言葉ではない。
つまり萩生田氏は、税の判断、衆院解散という極めて高い政治判断が必要なテーマに立ち入っているのだ。首相の領域に足を踏み入れた発言と言っていい。
萩生田氏は東京都八王子市を地元に持つ当選5回の中堅議員。議員秘書、市議、都議を経て国会に上り詰めた、たたき上げの政治家だ。12年に安倍氏が首相に返り咲いてから党筆頭副幹事長、総裁特別補佐、内閣官房副長官、党幹事長代行と、一貫して党の要職や安倍氏の側近ポストを務めている。その萩生田氏の発言だけに、与野党とも背後に安倍氏の意思があると勘繰る。
自ら「日銀短観」を口にするような男ではない
萩生田氏は問題発言の翌19日、記者団を前に「これは政治家としての私個人の見解を申し上げたもので、政府とは話していない」と安倍氏との連係プレーだったとの見方を否定した。しかし、その説明を信じる議員はほとんどいない。
信じない最大の理由は、萩生田氏が「6月の日銀短観を注視する必要がある」という趣旨の話をしていることだ。典型的な党人派の萩生田氏は、お世辞にも政策通とはいえない。その萩生田氏が「日銀短観」を口にするのは違和感がある。
麻生太郎副総理兼財務相は19日の記者会見で「萩生田が日銀短観という言葉を知っておった……。萩生田から初めて日銀短観っていう言葉を聞いたような気がするけどね」と皮肉交じりに語った。誰かの「入れ知恵」があったと勘繰っているのは明らかで、「誰か」は安倍氏しかいないと思っているのも明らかだ。
萩生田氏の発言は18日朝だった。同日の新聞夕刊に載せることは可能だったが、夕刊での各社の扱いはボツか短信だった。それが、翌19日朝刊では産経新聞が1面で報じた他、各社大きな特集記事で扱った。半日で騒ぎが大きくなった証拠といっていい。各社とも補足取材の結果、「萩生田氏の発言の影に安倍氏がある」という心証を持ったのだろう。