すでにサービスレベルは大手金融機関を上回る

図表1:アマゾンの金融事業を考える上での重要な視点(画像=『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』)

私の問題意識は、次の3点に集約できます。第1に、銀行の3大業務(図表1)である預金、貸出、為替はDuplicate(擬似的に創造)できるものになっています。銀行業の免許を取らなくても、デジタルテクノロジーを使って銀行と同じような事業を開始することができるのです。数ある金融ディスラプターの中でもアマゾンは、その先駆者ともいえる存在です。

アマゾンに加えて、アリババ、テンセントを含めた3大メガテックの事業領域はすでに、大手金融機関や数多のフィンテック企業を凌駕しています。アリババは決済アプリ「アリペイ」を入り口にしてサービスの拡大を目論んでいます。テンセントはコミュニケーションアプリ「ウィーチャット」を入り口に金融事業を垂直統合して生活サービス全般を支配しようとしています。

アマゾンもまた、すでに銀行の3大業務である預金・貸出・為替をデュプリケートし、事業を展開しています。例えば、小売・ECの売上を増大させるために決済機能(例「ワンクリック」)を進化させ、貸出業務を行い(例「アマゾンレンディング」)、実質的な預金機能を提供しています(例「アマゾンギフトカード」)。

テクノロジー企業の「当たり前」を持ち込んだ

また他の金融ディスラプターや銀行との決定的な違いとして商流、物流、金流を三位一体で押さえている点も指摘しておきます。アマゾンレンディングはサプライヤーやセラーに対する貸出業務であり、サプライチェーンに対する金融という側面が非常に大きいものです。

第2に、金融ディスラプター企業は、既存金融機関よりも本来的な金融機能を実現しているという点です。先進国において、資金需要があるのは零細企業や個人です。彼らに対して資金を提供しているのは、担保主義を中核とする銀行ではなく、「商流」を見てお金を貸すことができる金融ディスラプターたちです。それはアリババに顕著ですが、アマゾンもまた同様の役割を果たしています。

第3に、テクノロジー企業における「当たり前」を金融産業に持ち込んだという点です。特にアマゾンが持ち込んだものは「カスタマーエクスペリエンス」というゲームのルールです。グローバルに俯瞰してみれば、この点でも中国メガテックが先行しているとする向きもありますが、アリババやテンセントのサービスが中国以外の国々に浸透していない状況下、その凄みを理解しやすいのはアマゾンのカスタマーエクスペリエンスです。