金融事業を拡大する目的は「品揃えの拡大」

図表2:ビジネスモデルの中心にあるのは「成長(Growth)」(画像=『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』)

しかしなぜアマゾンは金融事業に参入するのか。銀行の3大業務である預金、貸出、為替を事実上、展開しているのはなぜなのか。まずはこの点を深掘りしていきましょう。

アマゾンはベゾスが創業時に紙ナプキンにメモしたビジネスモデル(図表2)を回すことで、アマゾン経済圏を拡大させています。ビジネスモデルの中心に置かれているのは「成長(growth)」という言葉です。その周辺に次のような循環図が描かれています。

「セレクション(品揃え)を増やす」、すなわち多くの商品を取扱い、お客様にとっての選択肢が増えると「お客様の満足度が上がる」。満足度が上がると「トラフィックが増える」、つまりアマゾンに人が集まる。すると「そこで物を売りたい」という販売者が集まる。ますます「選択肢が増え」「お客様の満足度が上がる」。これがアマゾンの経済圏が成長していく循環構造になっています。

さて結論めいたことを述べるならば、アマゾンの金融事業とは、この循環構造を強化するかたちでアマゾン経済圏の拡大を促すものです。売り手の数を増やし、売り手の事業を直接的に支援し、品揃えの拡大にも貢献するものです。その結果として、アマゾン経済圏全体のトラフィックが拡大するのです。

金融事業で覇権を握ろうとしているのではない

具体的に見てみましょう。アマゾンが提供する「貸出」機能の1つ、アマゾンレンディングは、アマゾンに出店している事業者(セラー)について、売上の推移、顧客からの評価などを含むデータをもとに信用力を評価します。この融資により、販売者が提供する品揃えはより豊富になり、ビジネスが成長することでしょう。

「決済」機能も同様です。周知の通り、ワンクリック決済はアマゾンを爆発的に成長させたきっかけの1つです。以降もアマゾンは、アマゾンペイやアマゾンゴー、そして音声決済であるアマゾンアレクサといった、イノベーティブな決済機能を投入し続けています。これまたカスタマーエクスペリエンスの向上やトラフィックの増大につながるわけです。創業以来、アマゾンは「地球上で最も顧客第一主義の会社」として、カスタマーエクスペリエンスを追求してきました。そのビジョンも、前述のビジネスモデルにも一切変更はありません。金融事業もその一環です。ワンクリック決済がどれだけカスタマーエクスペリエンスを向上させたことか。

アマゾンが金融事業に参入するのは、アマゾン経済圏の拡大を促す手段としてです。したがってアマゾンは、金融事業そのもので覇権を握ろうとは考えていないのだと、読み解くべきです。