また、文化財保護法に定められたものを棄損した場合、棄損した犯人がたとえ持ち主自身であっても罪に問われます。それが前述した「処罰の対象も広がる」の意味。国民全体の貴重な財産だから、たとえ自分の所有になっているものでも、傷つければ加害者になるということです。

まとめると、刑法の器物損壊罪は一般的な器物に対する落書きのケース。器物損壊罪における特別法として位置付けられているのが文化財保護法ということになります。

法律上はこのように定められている落書きの罰則ですが、実際に犯人が逮捕されたという話はまず聞きません。

数年前、区立公園内の公衆トイレへの落書きで起訴され、最高裁まで争って有罪(懲役1年2カ月、執行猶予3年)となった例があります(06年1月17日)。トイレの建物外壁全体にラッカースプレーで文字を大書したケース。原状回復に相当の困難を生じさせたということで、損壊に当たると判断されました。

私は、落書きに対しては、近年実施された駐車違反の民間監視員制度や路上喫煙禁止のような形で臨むのが最も有効ではないかと考えています。つまり、民間の人材を活用し、現場で行政罰の一種として反則金を徴収する。徴収したお金は文化財の保護資金に回せば一石二鳥となるでしょう。

刑法があっても実際には告訴して手間をかける人が少なく、逮捕される人もない現状では、落書き防止に役立たないどころか遵法精神を低下させるという意味でも悪影響のほうが大きいと考えるべきです。

※すべて雑誌掲載当時 

(構成=小山唯史)