「だから、われわれも役員をいかにうまく使うか、使い方を貧欲に考えます。縦割り組織の長である役員が部門を動かす力は絶大です。その部門が、もうやり尽くして何も余地がないといい出し、閉塞感が表れたとき、もう一度挑戦してもらう。あるいは、枠外にある部署のノウハウを超法規的に短期導入して事態を打開する。そんなとき、役員の力を借りる。役員も自分たちをうまく使えという。
CEは部長か次長級ですが、トップともしょっちゅう顔を合わせ、遠慮せずに話せる。それだけCEを尊重してくれるのは、トヨタの財産だと誰もが思ってくれているからだと私は思います」(大塚)
現場ではボトムアップでアイデアを引き出す一方で、トップダウンも巧みに使い、問題を解決する。プロジェクト自体が分権型と集権型のいいとこ取りをしたハイブリッドな組織になっているところが、トヨタの最大の特徴だ。
トヨタの商品戦略はマーケットを分析し、競合をベンチマークして車種を揃えるフルラインで強みを発揮してきた。その点、「車のあるべき姿」を追求したプリウスは特別な車といえる。そのCEになぜ、大塚は起用されたのか。エスティマやアルファードのハイブリッド版の開発にも携わったが、もとは花形の設計部門ではなく、傍系の振動実験室の出身。初代のCEを務めた内山田竹志(現副社長)も同じ出身でかつての上司だった。
「振動や騒音はエンジン、ボディ、サスペンション……すべての部門がかかわるため、常に横串で見ながら仕事をしていました。改善するには各部門に頼んで図面を描き替えてもらう。車全体を見る目と説得する力はそのころ養われました」
大塚はライフスタイルを演出するプリウスを「洋服的なツール」と表現する。取材当日、自身はプリント柄シャツに細身のパンツとデザイナー風のいでたちで現れた。趣味はドラム。学生時代、自動車メーカー志望ながら本流の機械系ではなく、「エレクトロ技術が重要になる」と電気工学を専攻した。異端異能も擁し、適材を適時適所に配するところにトヨタの強さが表れている。
(文中敬称略)