為替リスクを解消する円建て米国債

将来においてドル安になることによって、日本も中国も豊富な貯蓄の目減りは避けたい。そのような為替差損を回避することのできる方法として、アメリカ政府に円建て国債や人民元建て国債を発行させて、それらを日本と中国が購入するということが考えられる。日本政府や日本の投資家が円建てのアメリカ国債に投資することができれば、為替差損や為替リスクは解消されるし、中国政府や中国の投資家が人民元建てのアメリカ国債に投資することができれば、彼らの為替差損や為替リスクは解消される。

一方、アメリカ政府にとっては国債を償還するときまでに円や人民元に対してドル安が発生すると、国債の償還時の負担が増大することから、円建て国債や人民元建て国債はアメリカ政府によるドル安を抑止することにもなるであろう。

そして、円建てや人民元建てのアメリカ国債が発行されると、日本や中国の投資家が保有している円建ての貯蓄資金や人民元建ての貯蓄資金が投資されるであろうから、東京や上海の外国為替市場では何も起こらない。ニューヨークの外国為替市場では、アメリカ政府が円建て国債や人民元建て国債を発行することによって調達した円建て資金や人民元建て資金をドルに換える必要がある。外国為替市場で円売りドル買い、あるいは人民元売りドル買いの取引が行われ、ドルの暴落は起こらず、その信認も維持されよう。ただし、国債の償還の時点では、反対方向の外国為替取引が行われることから、将来的にはドル安傾向となろう。

このような円建て外債はサムライ債と呼ばれている。アルゼンチンの通貨危機のときに、アルゼンチンのサムライ債が返済不能となって、痛い目に遭ったことをまだ記憶している投資家もいることだろう。さすがに、アメリカはアルゼンチンとは違うことを期待したい。また、アジア開発銀行が人民元建て債券を発行したことがあり、そのような人民元建ての国際機関の債券はパンダ債と呼ばれている。このようなサムライ債とパンダ債をアメリカ政府に発行させれば、日本も中国も豊富な貯蓄を為替リスクにさらされることなく、安心して運用することができよう。

日本政府は、円滑に資金が流れるようにするために、アメリカ政府にサムライ債を発行させて、財政赤字の資金調達をするように主張すべきである。あるいは、地域金融協力の一環として中国政府と協調して、アメリカ政府にサムライ債とパンダ債を発行させて、膨大な財政赤字の資金調達をするように、合同交渉することもあるだろう。いまこそ、沈みかけた黒船を救うとともに、我々の大切な貯蓄の目減りを防ぐために、サムライとパンダが手を組むときであろう。

(図版作成=平良 徹)