アジアの貯蓄をドル安から守る2つの方法
それでは、このような膨大なアメリカの財政赤字はどのようにすれば賄えるのであろうか。これまでのグローバル・インバランスのなかでは、おおよそ以下のように国際的に資金が流れていた。一つは、アジア(とりわけ、日本と中国)の豊富な貯蓄がアメリカの国債等を運用することによって、アメリカの財政赤字の資金調達に向けられていた。もう一つは、今回のアメリカ発の金融危機が世界金融危機に発展した背景となったことであるが、中近東、ロシアなどの石油輸出国の経常収支黒字が欧州、特に、ロンドン・シティの国際金融機関を通じて、アメリカのサブプライムローンの証券化商品に運用されることによって、アメリカの住宅投資の資金調達に向けられていた。あるいは、90年代後半にアメリカでITブームあるいはITバブルが発生して、同時に、アメリカの経常収支赤字が増大し始めたときには、大量に欧州からアメリカへ資本が流入した。そして、ITバブル崩壊とともに、その資本が欧州に引き揚げられたことがあった。90年代後半には資金が欧州からアメリカに流れ込んだために、ドル高ユーロ安が進んだ。しかしその後、00年代に入り、ITバブル崩壊とともに、資金がアメリカから欧州へ逆流し、その影響を受けて、ドル安ユーロ高が進んだのだ。
これまでのグローバル・インバランスと国際的な資金の流れの状況に加えて、アメリカ発の金融危機が欧州にまで深刻な金融危機をもたらしていることを考慮に入れると、今後のアメリカの財政赤字を賄うための資金を期待することができるのは、アジア、とりわけ、日本と中国の豊富な貯蓄であろう。バーナンキ連邦準備制度理事会議長やポールソン前財務長官は、このアジアの豊富な貯蓄を「過剰貯蓄(saving glut)」と呼び、そして、これが世界金融危機の原因になったと批判している。しかし、アメリカ政府は、財政赤字を賄うためにはアジアの豊富な貯蓄(彼らから言わせれば、過剰貯蓄)に頼らざるをえない。
今後のアメリカの膨大な財政赤字がアジアの豊富な貯蓄によって賄われなければ、アメリカの国債の価格が暴落し、国債に対するリスク・プレミアムが高まって、長期金利が上昇することであろう。この長期金利の上昇は、設備投資回復の腰を折り、景気回復に一層悪い影響を及ぼすであろう。したがって、アジアの豊富な貯蓄は、それがたとえ過剰貯蓄だとしても、アメリカの財政赤字を賄うために流し込んでほしいというのが、アメリカ政府の願いであろう。その願いを受け入れるかどうかは、アジア・サイドが決めることである。