従業員を大切にするなら、働き方の業績指標を

近年、欧米の企業では、株主以外の利害関係者に関する業績指標を導入する傾向があります。特にアメリカでは、半数以上の企業がCSR(企業の社会的責任)やESG(環境・社会・ガバナンス)に関する指標を取り入れるようになってきています。例えば、管理職における女性の割合やCO2排出量、従業員の働き方などに関する目標を設定し、その達成度で報酬額を決める指標を加えています。

日本企業は株主重視ではなく従業員重視とよくいわれますが、そうであれば、欧米企業のように、従業員の働き方に関する指標を取り入れるとよいでしょう。また、日本企業は中期経営計画を立てることが多いですが、そうした経営計画との関連づけも必要です。このように、企業が重視する業績指標と経営者の報酬を連動させることによって、経営者のコミットメントや企業の目指す方向が明確になります。

投資家にとってのわかりやすさも重要です。業績がどう変化すれば経営者の報酬はどう変わるのか、表やグラフなどを用いてわかりやすく示すことで、投資の意思決定がしやすくなります。

日本では「人の報酬に興味を持つのははしたない」といった見方もあります。しかし、経営者の報酬は、株主や投資家から見て、企業がしっかりと経営されているかどうかを判断でき、かつ株主が企業をコントロールできる数少ないツールの1つです。例えば、企業が行う投資は、株主や投資家には正しいかどうかの判断が難しい場合が多いものですが、業績が悪化しているのに経営者の報酬が上昇していれば、それはおかしいとわかりますし、株主は声を上げることができます。

現在、日本では個別の役員報酬は1億円以上の場合に限り開示が義務づけられています。これは、払いすぎを防止するという意味ではいいのですが、きちんとした報酬が支払われているかどうかを確認するためには不十分です。株主や投資家が、前の年、他の役員、さらに同業他社と比べて妥当性を判断できるようにするには、すべての役員報酬を開示すべきです。

アメリカ企業のアニュアルレポート(年次事業報告書)を見ると、役員報酬の説明にかなりのページを割いています。役員報酬は、株主や投資家にとって非常に重要な情報であるという認識を、日本企業も持つべきでしょう。

経営者の報酬を決める際は、その経営者の市場価値を考慮することも必要です。特に外部から招へいする場合、市場価値よりも高い報酬を払わなければ、優秀な経営者の獲得は困難です。ゴーン氏のように外国人経営者の報酬が高額になるのは、このためです。ですから、日本企業が高額な報酬を払って外国人経営者を招へいするのは合理的と言えます。日本人であっても、海外企業のトップに採用されるような人材が出てくるようになれば、海外並みの報酬が当たり前になるでしょう。

久保克行(くぼ・かつゆき)
早稲田大学商学学術院教授
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスPh.D.。一橋大学経済研究所専任講師等を経て現職。専門はコーポレート・ガバナンス、人的資源管理、労働経済学。著書に『コーポレート・ガバナンス 経営者の交代と報酬はどうあるべきか』など。
(構成=増田忠英 写真=ロイター/アフロ)
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