リークという形の官僚の反発はよく見られる

【牧原】元文部科学事務次官の前川喜平氏がまさに『面従腹背』という本を書いています。これはほかの国でも同じです。アメリカでもイギリスでも、政権交代が起こる民主主義のシステムのなかでは、リークという形の官僚の反発はよく見られる事例なんです。

【西田】今までの日本でそれがあまり表立っていなかった理由についてはいかがですか。

【牧原】やはり政治が行政主導だったから、ということが大きいでしょう。官僚が事務次官たちと一体だったし、最終的には天下りができるわけですから、リークをする動機が彼らにはなかった。なので、リークがあったとしてもごく例外的なケースでした。民主党政権時代に政治主導が推し進められた結果、その前提が崩れたわけです。

【西田】当時も尖閣列島における保安庁のビデオ問題がありました。

【牧原】官僚によるリークの形での政権批判が目に見えるようになってきたんです。安倍政権はその流れを否応なしに受け継いでいるといえるでしょう。

「政治主導」に対して政治家の質が追いついていない

【西田】その意味では昨今の「公文書問題」も日本においては新しい現象ですから、「政治主導」の産みの苦しみか、伝統的な官僚制との闘争のようなものだと捉えられるかもしれません。

【牧原】民主党政権も安倍政権も気づいていなかったのは、官僚というものが面従腹背で、「何かあったらリークでもなんでもして、政権を止めてやろう」と思っていることです。彼らの大きな誤解の一つは、政治主導で手綱を握れば官僚たちは素直に言うことをきく、と思っていたことではないでしょうか。

【西田】「政治主導」を進める政治家の質にも課題がありませんか?

【牧原】ええ。小選挙区制度の中でもっと政策論をするようになるかと思いきや、現実には選挙のことばかりを見ている人が増えている印象です。「政治主導」に対してその担い手である政治家の質が追いついていないのは、やはり根深い問題だと思います。