政権交代から10年程度なら野党が弱いのは当たり前

【牧原】ただ、日本ではまだ政権交代が初めて起こってから、わずか10年程度しかたっていなんですね。安倍政権は長期政権と言われますが、それもまだ6年。この間について言えば、政権交代のあと当分野党が弱い状態が続くのは、民主主義の国では本来当たり前のことなんです。ようやくいま立憲民主党が出てきて、少しずつ野党らしい野党になってきている段階だと私は見ています。

【西田】6年というのは政治の文脈ではそれほど長くはない、と。

【牧原】はい。にもかかわらず、思ったよりも安倍政権の方が先に疲弊してきているように思いますけれど。

牧原出・東大教授(左)と西田亮介・東工大准教授(右)

【西田】では、そのなかでいまの政治に求められることについて、牧原先生はどうお考えですか。

【牧原】いまの政治家を見ていて最も懸念を覚えるのは、マイクロマネジメントに寄り過ぎているように見えることです。一つひとつの政策や分野には詳しくても、例えば「年金問題には詳しいが他を知らない」といった人が多い。しかし、政治とは本来、全体のバランスが大事であるはずです。

壊れつつある「政」と「官」の関係性を仕切り直す

牧原出『崩れる政治を立て直す 21世紀の日本行政改革論』(講談社現代新書)

【牧原】升味準之輔という政治学者は『日本政党史論』の中で、日本で初めて本格的な政党内閣を組織した原敬のことを、「言動や思考がきわめて現実的で巨大な平均値である原の心」と評しています。個別の政策について議論を深めるのはもちろん大切ですが、政治家には最終的に平均値を取る能力が求められる。近年の政治家は自分の専門と考える政策の中にこもってしまっている気がします。

【西田】作動学的なものとそれは、どのようにつながっていきますか。

【牧原】官僚や専門家による政策の「動かし方」を検証・分析する作動学的な視点は、多様な制度のチューニングが必要であり、一点に視野を狭めるマイクロマネジメントとは相いれないものです。政治主導の中で壊れつつある「政」と「官」の関係性を仕切り直すためにも、行政のあり方にそぐう政治を進めながら、政治家の能力を高めていくには何が必要なのかの議論を深めていくべきでしょう。

※編集部注:この対談は2018年10月、東京大学 先端科学技術研究センターにて収録しました。一部の発言は現在の時制にあわせて編集しています。

牧原出(まきはら・いづる)
東京大学 先端科学技術研究センター 教授
1967年生まれ。政治学者。専門は政治学・行政学。90年東京大学法学部卒業。同助手、東北大学法学部助教授、同大学院法学研究科教授を経て、現職。2003年『内閣政治と「大蔵省支配」――政治主導の条件』(中公叢書)でサントリー学芸賞を受賞。著書に『行政改革と調整のシステム』(東京大学出版会)、『権力移行』(NHK出版)、『「安倍一強」の謎』(朝日新書)などがある。
西田亮介(にしだ・りょうすけ)
東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院 准教授
1983年生まれ。社会学者。博士(政策・メディア)。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同後期博士課程単位取得退学。中小企業基盤整備機構経営支援情報センターリサーチャー、立命館大学大学院特別招聘准教授などを経て現職。情報と政治、情報社会のジャーナリズム、無業社会などを研究。著書に『メディアと自民党』(角川新書)、『情報武装する政治』(角川学芸出版)などがある。
(構成=稲泉 連、撮影=プレジデントオンライン編集部)
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