京セラのアメーバ長は、自分の責任をもつ独立採算であるアメーバの目標達成のみでなく、他者のために、そして、企業全体のためになにをなすべきかを考えながら行動し、その結果として目標達成が可能となっている。
京セラのアメーバ経営は、時間当り採算計算を軸とし、京セラフィロソフィーに織り込まれた多様なコントロール手段を巧みに組み合わせて、目標の達成を目指すとともに、経営者感覚をもつ人材を育成し、全社一丸となった経営を実現しようとしている。
注目すべきは、人への働きかけである。業績は、組織構成員の活動によって達成されるのであるから、会計的なコントロールのみに拘泥せず、人を目標達成に向ける多様なコントロール手段との併用を考えたほうがよい。京セラでは、それが実践されている。
キーワード「マネジメント・コントロール」の4つの要素
京セラの経営を経営学の視点で分析すると、聞きなれない言葉かもしれないが、キーワードは『マネジメント・コントロール』である。
マネジメント・コントロールとは、上位の管理者が組織目的や戦略の達成が可能となるように、下位の管理者に対して影響を与える活動である。たとえば、予算管理は、目標達成に導く会計的なコントロールであるが、それが唯一無二のマネジメント・コントロールの手段ではない。目標の達成は人によって実現するのだから、人に目標達成に向けて思考し行動するように、働きかけることが大切なのである。そのように考えると、マネジメント・コントロールには、多様な手段があることがわかる。
すでに、25年近くも前に、当時、ハーバード・ビジネススクールのサイモンズは、マネジメント・コントロール・システムは4つの要素(コントロール・レバー)から構成されていると指摘した。4つの要素とは、信条システム、事業と倫理の境界システム、診断的コントロール・システム、インターラクティブ・コントロール・システムである。
以下、この4つの要素がどのようなものであるか、そして、それらが相互にどのように関連しているかを説明する。
(1)信条システム
信条システムとは、経営理念やビジョン、あるいは、コアバリューという経営戦略の策定のベースとなるものであり、どのような経営戦略を採用すればよいのかを決定する出発点となる。
経営理念やビジョンは、往々にして、「絵に描いた餅」だと理解される傾向があるが、実は違う。やるべきことは、無数にある。その中なら、何を選択し、どのように行動に取り組むべきかを選択する時の拠り所となるという意味で、人の判断や行動をコントロールする役割を果たしている。