ギャンブル依存症対策の鍵は、IRの誘致
大阪市がIRを発展させるエリアとして構想しているのは、湾岸エリアだという。吉村市長は「本来、世界的な大都市は湾岸エリアが発展しているが、大阪の湾岸部は倉庫や物流の拠点となっており、発展しているとは言い難い」と、湾岸部が大阪市の弱点となっている現状を認める。「MICEやIR施設によって、湾岸部をエンターテインメントに特化した街にしていけば、他都市との差別化は進み、新しい大阪の強みとなる。そういった力がIRにはあるのではないかと期待しています」と吉村市長は語った。
大和総研の試算によれば、IRによる経済波及効果は約5兆円、運営段階では2兆円弱の効果が見込まれている。こういった経済効果も、大阪の弱みを強みに変える力となるか。
しかしIRにはメリットだけでなく、顕著なデメリットもある。IRの中心とされるカジノ産業は言うまでもなくギャンブルであり、依存症問題への対策は必須だ。厚生労働省が発表した19年度の予算請求によれば、アルコール・薬物・ギャンブル依存症すべての対策費は合計で8.1億円。このうちどれほどがギャンブル依存症対策へ割り当てられているかは不明だが、現状を顧みるに十分な対策がされているとは思い難い。
だが吉村市長は、「カジノができることで、結果的に依存症は減っていく」と語る。
「確かに、現状ではギャンブル依存症への十分な予防や支援はできているとは言えない現状がある。しかし現状できていないものは、何か外部からの力が働かない限り変化しないと思っています」
吉村市長にとって、その“外部からの力”とはカジノの導入だという。
「今までは対策を取りたくても予算や政治的な優先順位といった力学に左右され、結果的にギャンブル依存症の対策は取れていなかった。しかしカジノという新しい力が入ることによって、国民の目はギャンブルへ向く。そうなればカジノで始まった依存症対策がパチンコや競馬にも波及すると考えています」
大阪の街は今、大きな意思を持って変わろうとしている。
大阪観光局長
1960年生まれ。東京大卒。自治省(現総務省)に入省後、大分県庁に出向し、大分トリニータを育てあげた。2010年に観光庁長官、16年より現職。大阪を「急成長渡航先ランキング」で世界1位にさせた。
吉村洋文(よしむら・ひろふみ)
大阪市長
1975年、大阪府生まれ。九州大学法学部卒。弁護士活動を経て、2011年大阪維新の会から市議会議員に出馬し当選。14年に維新の党から衆議院議員に出馬し、当選。15年から大阪市長。