「何をしても解決にならない」「職務上不利益が生じるから」

実際に、パワハラはどれくらい存在しているのでしょうか。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/VectorFlames)

厚生労働省のパワハラ実態調査(※)によると、パワハラを受けた経験があると回答した人の比率は、調査対象者の32.5%に上っています。

※厚生労働省委託事業「職場のパワーハラスメントに関する実態調査報告書」(2017年3月、委託先:東京海上日動リスクコンサルティング株式会社)。以下、「パワハラ実態調査」とする。

そして過去3年間に、パワハラを受けたと感じた人のうち、事後「何もしなかった」人は40.9%に上り、その理由として「何をしても解決にならないと思ったから」、「職務上不利益が生じると思ったから」が挙げられています。

職場で働く3分の1近くがパワハラを受けた経験があり、その半数弱がパワハラの解決を諦めている深刻な実態が窺えます。

(2)パワハラの解決を難しくしている「管理職」の共通点

パワハラ実態調査によると、相談の内容として最も多いのは、「精神的攻撃」で約7割です。また、加害者と被害者の関係としては、上司から部下へ行われていたものが約8割となっています。このことから、パワハラを行う人が管理職などの上席者であることが多いがゆえに、事実関係が露呈しづらく、パワハラの解決を困難にしていると想像できます。

筆者は今回、大手企業の管理職複数人にパワハラの体験談について聞きました。すると2人から、こういう証言がありました。

「権限を持つ人が行うハラスメントは、周囲も見て見ぬふりである。配下のチームリーダーに無理なノルマを課すので、チームリーダーも病むか去るか、部下にきつくあたるなど、負の連鎖に繋がっている。上席者になるほど、自分は正しいと思い込むので、注意する人もいない」
「パワハラを行う上司は、自分の意に沿わない動きをする部下を精神的に追い詰め、他の部署に異動させることもあるため、他の部下はどんなことでもご意見伺いをするという構図に陥ってしまった。パワハラ被害者が1人脱落しても、また次のターゲットを見つけて揚げ足をとることで追い詰め、部からはどんどん人がいなくなるという状態。他部からは“ブラックな部署”と見られているのに、上司は、自分の組織は良い組織だと思っている。経営層の耳に入るようになり、ようやくその上司の嫌がらせは(一時的かもしれないが)なくなった」

管理職であり、権限を持っているために部下が何も言えずに状況が悪化しやすい、パワハラを行う管理職自身がパワハラを行っている自覚がない、という問題の構図が見えてきます。