自分のパワハラに気づけない管理職の「性格」
筆者は主に管理職を対象にパワハラについての研修を行っています。その経験では、多くの管理職は、自分のパワハラに気づくことができると自主的に改善しますが、性格的な特性から改善できない管理職も一定数存在します。
企業側としては、前者のタイプの場合は、自分がパワハラをしていることに気づくことが大切であるため、研修の中で、匿名で自社の実例を取り上げて管理職自身が気づく機会を与える、などの対策が有効です。
一方、後者の場合の対処は簡単ではありません。前述した経験談の中では、経営層の耳に入ったことで解決した事例が述べられていました。後者のタイプのパワハラを防ぐことができるのは、問題となっている管理職より上の権限を持つ経営層の判断です。場合によっては、パワハラを改善できない管理職は部下のいない部署へ異動させ、その上で、一担当者として経営層から直接指示を受ける仕事を担当させる、といった強硬策なども考えられます。
(3)パワハラの解決を難しくしている判断基準の難しさ
パワハラ実態調査によると、パワハラの予防・解決に取り組むに当たっての課題、問題点として最も多いのは、「パワハラかどうかの判断が難しい」で70.9%となっています。また、パワハラの予防・解決に取り組むことで起こる問題として「権利ばかり主張する者が増える」(56.9%)、「パワハラに該当すると思えないような訴え・相談が増える」(48.9%)、「管理職が弱腰になる」(43.6%)が挙げられています。
筆者が今回の記事のために実施したインタビューでは、管理職の人たちからは、パワハラに気を使い過ぎてしまうなどの意見もありました。
「注意するときもその人を責めるような感じにならないように細心の注意を払っている」
「管理職なのでパワハラに気をつけるのは当然だと思う反面、上司からの指示を全てパワハラと言う部下ほど、上司がきちんと指示をしてくれないと言うので、対策に困っている」
「ハラスメントがクローズアップされるようになり、簡単に告発できるようになっているからか、中間管理職(特に男性)が、部下に対してとても気を使ってしまっている」
パワハラを理由に、自身の権利を主張する部下にどう対応するか悩む管理職が少なくありません。
中には、「最近では、やりたくないのにやらされた、と言われるとそれもパワハラになってしまうので、新人歓迎会や各種宴会の芸を若手にやらせず、管理職がやっている」と言う意見もありました。
部下が「パワハラだ」と過剰に主張するケースでは、部下への教育の定義が曖昧になっている、などの原因が考えられます。パワハラと職責の線引きを明確にするためには、上席者や人事・コンプライアンス部、自分と同じ立場の人などとのコミュニケーションを図ることが必要です。