このままでは日本ではベンチャー企業が育たない

「では誰が今の日本でリスク・キャピタルを出すと言うんだ」と民間人取締役だった大物経済人は言う。地域金融機関は資金の出し手としての機能を失い、リスクをとって投資する資金は出てこない。そうなると日本ではベンチャー企業が育たないので、日本全体の成長が止まってしまう、というわけだ。

2018年9月に財務相が発表した法人企業統計によると、2017年度の企業(金融・保険業を除く全産業)の「利益剰余金」いわゆる「内部留保」は446兆円と過去最高に達した。しかも「現金・預金」として保有されているものが222兆円に達する。日本企業は資金を貯めこむばかりで、投資しようとしないのだ。

つまり、日本にお金がないわけではないのである。民間企業は資金を貯めこんでリスクを取らない。その一部がベンチャー投資に回れば、わざわざ国が投資ファンドを作る必要などないだろう。

世界水準の成果報酬と霞が関の枠組みは相容れない

そもそも国の枠組みの中で民間並みの組織を作ろうとしたこと自体が「同床異夢」だったのだ。国家公務員は自らの意思に反してクビになることがない身分保証の上に成り立っている組織だ。しかも終身雇用で、年功序列。降格されることもない。つまり働く場としてはリスクがゼロなのだ。

民間企業は、いつクビになったり降格されたりするか分からないリスクを背負っているからこそ、報酬は高いのだ。終身雇用・年功序列賃金が急速に崩壊している中で、成果報酬が導入され、活躍する人たちの報酬が高くなっているのは、ある意味当然のことだろう。

逆に言えば、終身雇用・年功序列の体系を維持している霞が関の枠組みが続く限り、グローバル水準の成果報酬の仕組みは決して相容れないということだ。JIC問題はそれが表面化したに過ぎないとも言える。JIC問題の教訓は、民間の経営者や投資家が「もう国には頼まない」という覚悟を持つことではないか。

磯山 友幸(いそやま・ともゆき)
経済ジャーナリスト
1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)などがある。
(写真=時事通信フォト)
関連記事
橋下徹「なぜ大阪に万博が必要なのか」
レーダー照射でなぜか反論する韓国の異常
「トランプと安倍は蜜月関係」は大誤解だ
不人気政策をガンガンやる安倍首相の余裕
公務員の給与が5年連続で増え続けるワケ